・・・にも何も乗ってくれないし、仕事がないからよけいも無い貯金をおろして、お手伝いも出来ぬひけめから、少し奮発してお礼に差出すと、それがまた気にいらないらしく、都会の成金どもが闇値段を吊り上げて田舎の平和を乱すなんておっしゃる。それでいてお金を絶・・・ 太宰治 「やんぬる哉」
・・・天然の設計による平衡を乱す前には、よほどよく考えてかからないと危険なものである。 寺田寅彦 「蛆の効用」
・・・各自の部署につき、良好な有力な拡声機によって安全なる避難路が指示され、群集は落ち着き払ってその号令に耳をすまして静かに行動を起こし、そうして階段通路をその幅員尺度に応じて二列三列あるいは五列等の隊伍を乱すことなく、また一定度以上の歩調を越す・・・ 寺田寅彦 「火事教育」
・・・天然の設計による平衡を乱す前にはよほどよく考えてかからないと危険なものである。 十一 毛ぎらい 子供の時から毛虫や芋虫がきらいであった。畑で零余子を採っていると突然大きな芋虫が目について頭から爪先までしびれ上がったと・・・ 寺田寅彦 「自由画稿」
・・・帽子を脱ぐと髪の毛を吹き乱す。やっとベデカの図を開いてパリじゅうを見おろす。塔の頂の洗いさらされた石材には貝がらの化石が一面についている。寺の歴史やパリの歴史もおもしろいが、この太古の貝がらの歴史も私にはおもしろい。屋根のトタンにも石にも一・・・ 寺田寅彦 「先生への通信」
・・・ 社会の風教を乱すような邪教淫祠、いかがわしい医療方法や薬剤、科学の仮面をかぶった非科学的無価値の発明や発見、そういうものに世人の多くが迷わされて深入りしない前にそれらの真価を探求したい。官衙や商社における組織や行政の不備や吏員の怠慢に・・・ 寺田寅彦 「一つの思考実験」
・・・ 人或は言わん、右に論ずる所、道理は則ち道理なれども、一方より見れば今日女権の拡張は恰も社会の秩序を紊乱するものにして遽に賛成するを得ずとて、躊躇する者もあらんかなれども、凡そ時弊を矯正するには社会に多少の波瀾なきを得ず。其波瀾を掛念と・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・というのは私たちは式場の神聖を乱すまいと思ってできるだけこらえていたのでしたがあんまり博士の議論が面白いのでしまいにはとうとうこらえ切れなくなったのでした。一番前列に居た小さな信者が立ちあがって祭司次長に何か云いました。次長は大きくうなずき・・・ 宮沢賢治 「ビジテリアン大祭」
・・・治安を守る人よりもあるときにおいて極端に治安を乱す人である。 そういうふうなことを、私どもの常識は平和とか基本的人権とかいうことの現実と結びつけて、直ぐピンと感じるような感覚を十分もっていないということが、問題だと思います。たとえば、浦・・・ 宮本百合子 「浦和充子の事件に関して」
・・・大学の自由は失われ、学内の統一を乱すという口実で、若い進歩的な哲学者たちは大学から追放されはじめた。政府御用の神学者シェリング等が筆頭となって、考え研究する能力ある人々を追いはらった。カールはこの状況のもとで大学教授を思いすてた。文筆人とし・・・ 宮本百合子 「カール・マルクスとその夫人」
出典:青空文庫