・・・しかし、予定の紙数の制限に近づいたので、別の機会に譲る。 明治の諸作家が戦争を如何に描いたか、戦争に対してどんな態度を取ったかは、是非とも研究して置かなければならない重要な題目である。若し戦争について、それを真正面から書いていないにして・・・ 黒島伝治 「明治の戦争文学」
・・・ ○ 天皇は学校に臨幸あらせられた。予定のごとく若崎の芸術をご覧あった。最後に至って若崎の鵞鳥は桶の水の中から現われた。残念にも雄の鵞鳥の頸は熔金のまわりが悪くて断れていた。若崎は拝伏して泣いた。供奉諸官、及び学校諸・・・ 幸田露伴 「鵞鳥」
・・・さすがにその秘密の仕事部屋には訪れて来るひとも無いので、私の仕事もたいてい予定どおりに進行する。しかし、午後の三時頃になると、疲れても来るし、ひとが恋しくもなるし、遊びたくなって、頃合いのところで仕事を切り上げ、家へ帰る。帰る途中で、おでん・・・ 太宰治 「朝」
・・・結婚式は午後五時の予定である。もう三十分しか余裕が無い。私は万策尽きた気持で、襖をへだてた小坂家の控室に顔を出した。「ちょっと手違いがありまして、大隅君のモオニングが間に合わなくなりまして。」私は、少し嘘を言った。「はあ、」小坂吉之・・・ 太宰治 「佳日」
・・・どうせ来年の予定だったから、来年までには、僕も何とかなるつもりでいた――が、それまでに一人前になれるかどうか、疑問に思われて来た。『新作家』へは、今度書いた百枚ほどのもの連載しようと思っている。あの雑誌はいつまでも、僕を無名作家にしたがって・・・ 太宰治 「虚構の春」
・・・はじめの予定では、北さんの意見のとおり、お見舞いしてすぐに金木を引き上げ、その夜は五所川原の叔母の家へ一泊という事になっていたのだが、こんなに母の容態が悪くては、予定どおりすぐ引き上げるのも、かえって気まずい事になるのではあるまいか。とにか・・・ 太宰治 「故郷」
・・・もうすぐにパリイへ立つ予定なのだから、なるたけ急いでベルリンの見物をしてしまわなくてはならないのである。ホテルを出ようとすると、金モオルの附いた帽子を被っている門番が、帽を脱いで、おれにうやうやしく小さい包みを渡した。「なんだい」とおれ・・・ 著:ディモフオシップ 訳:森鴎外 「襟」
・・・ 試みにある日曜の昼過ぎから家族四人連れで奥多摩の入口の辺までという予定で出かけた。青梅街道を志して自分で地図を見ながら、地理を知らぬ運転手を案内して進行したが、どこまで行ってもなかなか田舎らしい田舎へ出られないのに驚いた。杉並区のはず・・・ 寺田寅彦 「異質触媒作用」
・・・一つにはまだ年が行かない一人子の初旅であったせいもあろうが、また一つには、わが家があまりに近くてどうでも帰ろうと思えばいつでも帰られるという可能性があるのに、そうかと云って予定の期日以前に帰るのはきまりが悪いという「煩悶」があったためらしい・・・ 寺田寅彦 「海水浴」
・・・ もっともいわゆる、ルーティン的な仕事であって、予定の方法で、予定の機械の指示する示度を機械的に読み取って時々手帳に記入し、それ以外の現象はどんな事があっても目をふさいで見ないことにする流儀の研究ではなんの早わざもいらない、これには何も・・・ 寺田寅彦 「空想日録」
出典:青空文庫