・・・重ね重ねの怪しい蝶の振舞に、新蔵もさすがに怯気がさして、悪く石河岸なぞへ行って立っていたら、身でも投げたくなりはしないかと、二の足を踏む気さえ起ったと云います。が、それだけまた心配なのは、今夜逢いに来るお敏の身の上ですから、新蔵はすぐに心を・・・ 芥川竜之介 「妖婆」
・・・縦令舞台へ出る役割を振られてもいよいよとなったら二の足を踏むだろうし、踊って見ても板へは附くまい。が、寝言にまでもこの一大事の場合を歌っていたのだから、失敗うまでもこの有史以来の大動揺の舞台に立たして見たかった。 ヨッフェが来た時、二葉・・・ 内田魯庵 「二葉亭追録」
・・・ 寺ときいて二の足を踏むと、浅草寺だって寺ではないかと、言う。つまり、浅草寺が「東京の顔」だとすると、法善寺は「大阪の顔」なのである。 法善寺の性格を一口に説明するのはむずかしい。つまりは、ややこしいお寺なのである。そしてまた「やや・・・ 織田作之助 「大阪発見」
・・・なかなか探せぬと思っていたところ、いくらでも売物があり、盛業中のものもじゃんじゃん売りに出ているくらいで、これではカフェ商売の内幕もなかなか楽ではなさそうだと二の足を踏んだが、しかし蝶子の自信の方が勝った。マダムの腕一つで女給の顔触れが少々・・・ 織田作之助 「夫婦善哉」
・・・女の子は桃子が可愛い名だけれども、字面が悪いので二の足をふんでいます。そうしてみると私の名はいい名ね。 冨山房の本は、随分さがしているけれどもまだみつかりません。外交史の下巻はどうしたかしら? 聞いてみましょう。訳は一刻を争うから雑なも・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
出典:青空文庫