・・・それどころか、いつでも二目も三目始終生活と関係のある親類というものも、ある。知人もある。友達もある。それから、いつも大きな力で私たちを押し流す「世の中」というものもあるのだ。これらすべての事を思ったり見たり考えたりすると、自分の個性を伸ばす・・・ 太宰治 「女生徒」
・・・その代わりに、それは不器量な、二目とは見られぬような若い女が乗った。この男は若い女なら、たいていな醜い顔にも、眼が好いとか、鼻が好いとか、色が白いとか、襟首が美しいとか、膝の肥り具合が好いとか、何かしらの美を発見して、それを見て楽しむのであ・・・ 田山花袋 「少女病」
・・・どんな顔かと問えば、只食い附きそうな顔をしていたから、二目と見ずに逃げて這入ったと云う。そこへ佐藤という、色の白い、髪を長くしている、越後生れの書生が来て花房に云った。「老先生が一寸お出下さるようにと仰ゃいますが」「そうか」 と・・・ 森鴎外 「カズイスチカ」
出典:青空文庫