・・・仁右衛門はあたり近所の小作人に対して二言目には喧嘩面を見せたが六尺ゆたかの彼れに楯つくものは一人もなかった。佐藤なんぞは彼れの姿を見るとこそこそと姿を隠した。「それ『まだか』が来おったぞ」といって人々は彼れを恐れ憚った。もう顔がありそうなも・・・ 有島武郎 「カインの末裔」
・・・とへ御免候え会社へも欠勤がちなり 絵にかける女を見ていたずらに心を動かすがごとしという遍昭が歌の生れ変り肱を落書きの墨の痕淋漓たる十露盤に突いて湯銭を貸本にかすり春水翁を地下に瞑せしむるのてあいは二言目には女で食うといえど女で食うは禽語・・・ 斎藤緑雨 「かくれんぼ」
・・・君は、二言目には、貧乏、貧乏といって、悲壮がっているようだが、エゴの自己防衛でなかったら幸いだ。人に不義理はしていねえ、という事が唯一の誇りだとか言っているが、無理なつき合いはしたくねえ、というケチな言葉も、その裏にはありはしないか。自分は・・・ 太宰治 「風の便り」
・・・ ドミトリーは、インガがいくら説明しても二言目には、「俺はああいう風な教育はないんだ」と云う。「我慢がならないんだ。――お前が誰かほかの者と……俺あ知ってる、野蛮だとお前が云うのを。だが、俺はそれほどお前を愛してるんだ。」「ドミ・・・ 宮本百合子 「「インガ」」
・・・ 山岸の御隠居はんと呼ばれて居る政吉は、二言目には、「私はもう隠居なんやから、何も知らいてもらえんのえ、やや子と同じや云うてな。 息子の大けうなるもええが、すぐ隠居はんに祭りこまれて仕舞うさかい、前方から思うとったほど善い事・・・ 宮本百合子 「栄蔵の死」
・・・まして封建性のつよい日本のように、高名な祖父、或は父が家庭内で支配権をおのずから握っているばかりでなく、世間へ出てまで二言目には先ずあれは誰それの息子、娘として批判の基準をおかれることは、いかばかり苦痛であろう。弱気な若いものが中途半端に萎・・・ 宮本百合子 「花のたより」
・・・だからキット抱主が苦情があると思うからそれっきり行かないんですけど……あんな情ない腹の立った事はありゃしませんよ、ほんとうに、あんなものは二言目には金なんだから……」「……」私は一寸何と云っていいか分らなかった。あたり前にお気の毒さまな・・・ 宮本百合子 「芽生」
出典:青空文庫