のぶ子という、かわいらしい少女がありました。「のぶ子や、おまえが、五つ六つのころ、かわいがってくださった、お姉さんの顔を忘れてしまったの?」と、お母さまがいわれると、のぶ子は、なんとなく悲しくなりました。 月日は、ちょうど、う・・・ 小川未明 「青い花の香り」
・・・ 大きな穴が一つ、小さな同じような穴が五つあいていました。 二郎がそれを吹きますと、なんともいうことのできないやさしい、いい音色が流れ出たのであります。 いい音色は、沖の方へ流れてゆきました。 また、うねうねとつづいた灰色の・・・ 小川未明 「赤い船のお客」
・・・ 大阪の五つの代表的な闇市場――梅田、天六、鶴橋、難波、上六、の闇市場を歩いている人人の口から洩れる言葉は、異口同音にこの一言である。 思えば、きょうこの頃の日本人は、猫も杓子もおきまりの紋切型文句を言い、しかも、その紋切型しか言わ・・・ 織田作之助 「大阪の憂鬱」
・・・』と首を出したのは江藤という画家である、時田よりは四つ五つ年下の、これもどこか変物らしい顔つき、語調と体度とが時田よりも快活らしいばかり、共に青山御家人の息子で小供の時から親の代からの朋輩同士である。 時田は朱筆を投げやって仰向けになり・・・ 国木田独歩 「郊外」
・・・年齢の差が少なくとも五つ、六つ――十くらいはありたいが、二十二、三歳で相手を求めればどうしても齢が近すぎる。といって、十四、五の少女では相手になれまい。 八 最後の立場――運命的恋愛 しかしこうした希望はすべて運命と・・・ 倉田百三 「学生と生活」
・・・それがまた一ト通のことなら宜いが、なかなかどうしてどうして少なくないので、先ず此処で数えて見れば、腰高が大神宮様へ二つ、お仏器が荒神様へ一つ、鬼子母神様と摩利支天様とへ各一つ宛、御祖師様へ五つ、家廟へは日によって違うが、それだけは毎日欠かさ・・・ 幸田露伴 「少年時代」
・・・ と誰かの口真似のように言って、お三輪の側へ来るのは年上の方の孫だ。五つばかりになる男の児だ。「坊やは何を言うんだねえ」 とお三輪は打ち消すように言って、お富と顔を見合せた。過ぐる東京での震災の日には、打ち続く揺り返し、揺り返し・・・ 島崎藤村 「食堂」
・・・そこには軌道が二筋ずつ四つか五つか並べて敷いてある。丁度そこへ町の方からがたがたどうどうと音をさせて列車が這入って来る処である。また岸の処には鉄の鎖に繋がれて大きな鉄の船が掛かっている。この船は自分の腹を開けて、ここへ歌いながら叫びながら入・・・ 著:シュミットボンウィルヘルム 訳:森鴎外 「鴉」
・・・と、一度の息がつづくかぎり五つずつ数をよみました。すると、それだけの羊が、すぐに水の下から出て来ました。 おじいさんは、今度は牛の数を一と息でお言いなさいと言いました。娘がまた同じように、「一、二、三、四、五。一、二、三、四、五。一・・・ 鈴木三重吉 「湖水の女」
・・・お礼を言わぬどころか、あの人は、私のこんな隠れた日々の苦労をも知らぬ振りして、いつでも大変な贅沢を言い、五つのパンと魚が二つ在るきりの時でさえ、目前の大群集みなに食物を与えよ、などと無理難題を言いつけなさって、私は陰で実に苦しいやり繰りをし・・・ 太宰治 「駈込み訴え」
出典:青空文庫