・・・乳房に五寸釘を打たれるように、この御縁女はお驚きになったろうと存じます。優雅、温柔でおいでなさる、心弱い女性は、さような狼藉にも、人中の身を恥じて、端なく声をお立てにならないのだと存じました。 しかし、ただいま、席をお立ちになった御容子・・・ 泉鏡花 「革鞄の怪」
・・・と更に拝んで、「手足に五寸釘を打たりょうとても、かくまでの苦悩はございますまいぞ、お情じゃ、禁厭うて遣わされ。」で、禁厭とは別儀でない。――その紫玉が手にした白金の釵を、歯のうろへ挿入て欲しいのだと言う。「太夫様お手ずから。……竜と蛞蝓・・・ 泉鏡花 「伯爵の釵」
・・・手が、砂地に引上げてある難破船の、纔かにその形を留めて居る、三十石積と見覚えのある、その舷にかかって、五寸釘をヒヤヒヤと掴んで、また身震をした。下駄はさっきから砂地を駆ける内に、いつの間にか脱いでしまって、跣足である。 何故かは知らぬが・・・ 泉鏡花 「星あかり」
出典:青空文庫