・・・ 余は先生の人となりと先生の目的とを信じて、ここに先生の手紙の一節をありのままに訳出した。先生は新刊第三巻の冒頭にある緒論をとくに思慮ある日本人に見てもらいたいといわれる。先生から同書の寄贈を受ける日それを一読して満足な批評を書き得るな・・・ 夏目漱石 「博士問題とマードック先生と余」
・・・慶応三年の夏、始めて秩禄を受くるの人となりしもわずかに二年を経て明治二年の秋彼は神の国に登りぬ。曙覧が古典を究め学問に耽りしことは別に説くを要せず。貧苦の中にありて「机に千文八百文堆く載せ」たりという一事はこれを証して余りあるべし。その敬神・・・ 正岡子規 「曙覧の歌」
・・・髭に落花をひねりけり桜狩美人の腹や減却す出べくとして出ずなりぬ梅の宿菜の花や月は東に日は西に裏門の寺に逢著す蓬かな山彦の南はいづち春の暮月に対す君に投網の水煙掛香や唖の娘の人となり鮓を圧す石上に詩を題すべく・・・ 正岡子規 「俳人蕪村」
・・・その人それぞれの人となりや好みや属している社会の圏やそれらの境遇上の条件に対するそのひとの態度などというものを綜合的に反映しているものである。友情に慰安を求め得るために、人は先ず信頼に足る人物でなければならず、理解力のひろく明るい精神のもち・・・ 宮本百合子 「生活者としての成長」
・・・ けれども、白鳥は、荷風の人となりと「ひかげの花」の境地には賛成しているのである。「戦国時代には、弱者たる普通の民衆は、戦々きょうきょうとしてその日その日をどうにか生き延びていたであろうが、せちがらい今日『ひかげの花』の男女が、どうにか・・・ 宮本百合子 「一九三四年度におけるブルジョア文学の動向」
・・・ 私はこの一篇の小説を読み、作者のつくろわぬ真率な人となりに打たれたのであったが、作者によって目ざされている主題の効果を、はっきり読者の胸に徹底させるためには、遺憾ながら未しというところのあることも、あわせて痛感したのであった。「風・・・ 宮本百合子 「文学における古いもの・新しいもの」
・・・ああなつかしきその代の人となりたい。しかし、今、此宵の月に角笛は響かず。キーツは憧憬の眼を月に向けた。 キーツが何と言おうともこの「自我」なき「山の人」は憐れむべき者である。霊活の詩人が山の奥に山の人の衣を着る時、山の人は「人」として第・・・ 和辻哲郎 「霊的本能主義」
出典:青空文庫