・・・職場のサークルが、小説を書く人中心になりがちで、そのほかのサークル員の吸収をはばんでいるということが注目されて、新日本文学会は、文学の愛好者の意味を見直すように提案している。文連の第二回「文化会議」のサークルに関する懇談会記事に云われている・・・ 宮本百合子 「その柵は必要か」
・・・ それは、工場に通う女工のような者の中の幾部分や、小僧の幾部分かは、互の遊戯的気分から、わざわざ人中で靴の紐を結ばせ、結ぶような衒いをしますでしょう。然し、完全な四肢を与えられた者が、自分で自分の足の始末も出来ないでどうしましょう。又、・・・ 宮本百合子 「男女交際より家庭生活へ」
・・・まわりを房々だした束髪で、真紅な表のフェルト草履を踏んで行くのだが――それだけで充分さらりと浴衣がけの人中では目立つのに、彼女は、まるで妙な歩きつきをしていた。そんなけばけばしいなりをしながら、片手で左わきの膝の上で着物を抓み上げ持ち上った・・・ 宮本百合子 「茶色っぽい町」
・・・ 家柄は禰宜様――神主――でも彼はもうからきし埒がないという意味で、禰宜様宮田という綽名がついているのである。 人中にいると、禰宜様宮田の「俺」はいつもいつも心の奥の方に逃げ込んでしまって、何を考えても云おうとしても決して「俺の考」・・・ 宮本百合子 「禰宜様宮田」
・・・僕なんぞは内にいるよりか、ここにこうしている方が、どんなに楽だか知れないが、それでも僕は人中が嫌だから、久しくこうしていたくはないね。どうだろう。今夜は遅くなるだろうか」「なに。そんなに遅くもなるまいよ。余興も一席だから」「余興は何・・・ 森鴎外 「余興」
出典:青空文庫