・・・まずしい身なりをしていても、さすがに人品骨柄いやしからず、こいつただものでない、などというのは、あれは講談で、第二国民兵の服装をしているからには、まさしくそのとおり第二国民兵であって、そこが軍律の有難いところで、いやしくも上官に向って高ぶる・・・ 太宰治 「鉄面皮」
・・・一方は下賤から身を起して、人品あがらず、それこそ猿面の痩せた小男で、学問も何も無くて、そのくせ豪放絢爛たる建築美術を興して桃山時代の栄華を現出させた人だが、一方はかなり裕福の家から出て、かっぷくも堂々たる美丈夫で、学問も充分、そのひとが草の・・・ 太宰治 「庭」
・・・ これは余談であるが、一、二年前のある日の午後煙草を吹かしながら銀座を歩いていたら、無帽の着流し但し人品賤しからぬ五十恰好の男が向うから来てにこにこしながら何か話しかけた。よく聞いてみると煙草を一本くれないかというのである。丁度持合せて・・・ 寺田寅彦 「喫煙四十年」
・・・三田派の或評論家が言った如く、その趣味は俗悪、その人品は低劣なる一介の無頼漢に過ぎない。それ故、知識階級の夫人や娘の顔よりも、この窓の女の顔の方が、両者を比較したなら、わたくしにはむしろ厭うべき感情を起させないという事ができるであろう。・・・ 永井荷風 「寺じまの記」
・・・左れば舅姑と嫁との間は、其人品の如何に拘らず其家風の如何に論なく、双方をして真に骨肉の親子の如くならしめんとするも、千一万一の異例の外、先ず以て人情世界に行われ難き所望にして、本はと言えば古来流行の女子教育法に制せられ、遂に社会全般の習慣を・・・ 福沢諭吉 「新女大学」
・・・にして、その私権を固くせんとするには私徳を脩めざるべからざるの道理も、既に明白なりとして、さて今日の実際において、我が日本国の政治家はいかなる種族の人にして、その私徳の位は如何と尋ぬるに、外面より見て人品はいずれも皆中等以上の種族なれども、・・・ 福沢諭吉 「日本男子論」
・・・もしそれ曙覧の人品性行に至りては磊々落々世間の名利に拘束せられず、正を守り義を取り俯仰天地に愧じざる、けだし絶無僅有の人なり。この稿を草する半にして、曙覧翁の令嗣今滋氏特に草廬を敲いて翁の伝記及び随筆等を示さる。因って翁の小伝を・・・ 正岡子規 「曙覧の歌」
出典:青空文庫