・・・ 彼の述懐を聞くと、まず早水藤左衛門は、両手にこしらえていた拳骨を、二三度膝の上にこすりながら、「彼奴等は皆、揃いも揃った人畜生ばかりですな。一人として、武士の風上にも置けるような奴は居りません。」「さようさ。それも高田群兵衛な・・・ 芥川竜之介 「或日の大石内蔵助」
・・・少将は蒼い顔をしたまま、邪慳にその手を刎ねのけたではないか? 女は浜べに倒れたが、それぎり二度と乗ろうともせぬ。ただおいおい泣くばかりじゃ。おれはあの一瞬間、康頼にも負けぬ大嗔恚を起した。少将は人畜生じゃ。康頼もそれを見ているのは、仏弟子の・・・ 芥川竜之介 「俊寛」
・・・(おのれ、不義もの……人畜生と代官婆が土蜘蛛のようにのさばり込んで、(やい、……動くな、その状を一寸でも動いて崩すと――鉄砲だぞよ、弾丸と言う。にじり上がりの屏風の端から、鉄砲の銃口をヌッと突き出して、毛の生えた蟇のような石松が、目を光らし・・・ 泉鏡花 「眉かくしの霊」
出典:青空文庫