・・・いけねえ。いけねえ。人真似をしちゃ。」 今度は堀尾一等卒が、苦笑せずにはいられなかった。「××れると思うから腹が立つのだ。おれは捨ててやると思っている。」 江木上等兵がこう云うと、田口一等卒も口を出した。「そうだ。みんな御国・・・ 芥川竜之介 「将軍」
・・・ 白崎は直ぐあとを追うたが、しかしなかなか帰って来なかった。人真似の癖のある白崎は照井の真似をしてしまったのだろうか。果して女馭者の千代が「大晦日に帰って来る」という白崎のことづけをもたらして来た。すると、残った稗田は急にそわそわして来・・・ 織田作之助 「電報」
・・・すべて人真似である。学問はない。未だ三十一歳である。青二歳である。未だ世間を知らぬと言われても致しかたが無い。何も、無い。誇るべきもの何も無いのである。たった一つ、芥子粒ほどのプライドがある。それは、私が馬鹿であるということである。全く無益・・・ 太宰治 「困惑の弁」
・・・われわれ日本人民は人真似をする国民として自ら許している。また事実そうなっている。昔は支那の真似ばかりしておったものが、今は西洋の真似ばかりしているという有様である。それは何故かというと、西洋の方は日本より少し先へ進んでいるから、一般に真似を・・・ 夏目漱石 「模倣と独立」
・・・私のここに他人本位というのは、自分の酒を人に飲んでもらって、後からその品評を聴いて、それを理が非でもそうだとしてしまういわゆる人真似を指すのです。一口にこう云ってしまえば、馬鹿らしく聞こえるから、誰もそんな人真似をする訳がないと不審がられる・・・ 夏目漱石 「私の個人主義」
出典:青空文庫