・・・ 又 機智に対する嫌悪の念は人類の疲労に根ざしている。 政治家 政治家の我我素人よりも政治上の知識を誇り得るのは紛紛たる事実の知識だけである。畢竟某党の某首領はどう言う帽子をかぶっているかと言うのと大・・・ 芥川竜之介 「侏儒の言葉」
・・・そこから人類に大害をなすような事柄が数えきれないほど生まれています。それゆえこの農場も、諸君全体の共有にして、諸君全体がこの土地に責任を感じ、助け合って、その生産を計るよう仕向けていってもらいたいと願うのです。 単に利害勘定からいっても・・・ 有島武郎 「小作人への告別」
・・・歴史的に人類の生活を考察するとかくあることが至当なことである。 しかしながら思想的にかかる問題を取り扱う場合には必ずしもかくある必要はない。人間の思想はその一特色として飛躍的な傾向をもっている。事実の障礙を乗り越して或る要求を具体化しよ・・・ 有島武郎 「広津氏に答う」
・・・言辞は意味を為さない、聖書は旧約と新約とに分れて神の約束の書である、而して神の約束は主として来世に係わる約束である、聖書は約束附きの奨励である、慰藉である、警告である、人はイエスの山上の垂訓を称して「人類の有する最高道徳」と云うも、然し是れ・・・ 内村鑑三 「聖書の読方」
・・・ 正義のために殉じ、真理のために、一身を捧ぐることは、もとより、人類の向上にとって、最も貴ぶべく、また正しいことです。しかし、戦争が果して、それであると言い得られるでありましょうか? 少年を持つ親として、このことに考え至る者は、私一・・・ 小川未明 「男の子を見るたびに「戦争」について考えます」
・・・ 信吉は、自分の持っているものが、いつか学問のうえに役立てば、ひとりこの人のみの喜びでない、人類の幸福と思いましたから、「いえ、じき近いのです。僕、急いで持ってきますから。」といって、走り出しました。三 博士は、信吉・・・ 小川未明 「銀河の下の町」
・・・という音は実は人類の祖先だと信じられている猿の言葉から進化したものである――云々と、私は講演したのだが、聴衆は敬服して謹聴していたものの如くである。恐らく講師の私を大いに学のある男だと思ったらしかったが、しかし、私は講演しながら、アラビヤに・・・ 織田作之助 「可能性の文学」
・・・ 他人の頭でものを考えるというのは、つまり他人の着物を借りてまるで自分の着物のような顔をするということで、いいかえれば思想の借着であります。人類はじまって以来、多くの天才は僕らが借りるべき多くの着物を残してくれました。僕らは借着にことを・・・ 織田作之助 「猫と杓子について」
・・・俺も今こそかの芸術の仮面家どもを千里の遠くに唾棄して、安んじて生命の尊く、人類の運命の大きくして悲しきを想うことができる……」 寝間の粗壁を切抜いて形ばかりの明り取りをつけ、藁と薄縁を敷いたうす暗い書斎に、彼は金城鉄壁の思いかで、籠って・・・ 葛西善蔵 「贋物」
・・・木村はいつもになくまじめな、人をおしつけるような声で、「君はベツレヘムで生まれた人類が救い主エス、クリストを信じないか。」 別に変わった文句ではありませんが、『ベツレヘム』という言葉に一種の力がこもっていて、私の心にかつてないものを・・・ 国木田独歩 「あの時分」
出典:青空文庫