・・・せめては今日会っただけでも、仏菩薩の御慈悲と思うが好い。」と、親のように慰めて下さいました。「はい、もう泣きは致しません。御房は、――御房の御住居は、この界隈でございますか?」「住居か? 住居はあの山の陰じゃ。」 俊寛様は魚を下・・・ 芥川竜之介 「俊寛」
・・・ 道祖神は、ちょいと語を切って、種々たる黄髪の頭を、懶げに傾けながら不相変呟くような、かすかな声で、「清くて読み奉らるる時には、上は梵天帝釈より下は恒河沙の諸仏菩薩まで、悉く聴聞せらるるものでござる。よって翁は下賤の悲しさに、御身近・・・ 芥川竜之介 「道祖問答」
・・・「大慈大悲は仏菩薩にこそおわすれ、この年老いた気の弱りに、毎度御意見は申すなれども、姫神、任侠の御気風ましまし、ともあれ、先んじて、お袖に縋ったものの願い事を、お聞届けの模様がある。一たび取次いでおましょうぞ――えいとな。…… や、・・・ 泉鏡花 「貝の穴に河童の居る事」
・・・いたし候とともに、手の壺微塵に砕け、一塊の鮮血、あら土にしぶき流れ、降積りたる雹を染め候が、赤き霜柱の如く、暫時は消えもやらず有之候よし、貧道など口にいたし候もいかが、相頼まれ申候ことづてのみ、いずれ仏菩薩の思召す処にはこれあるまじく、奇し・・・ 泉鏡花 「神鷺之巻」
・・・彼は釈迦が法華経を説いたとき、「十方の諸仏菩薩集まりて、日と日と、月と月と、星と星と、鏡と鏡とを並べたるが如くなりし時」その会中にあって、法華経の行者を守護すべきを誓言したる八幡大菩薩は、いま日蓮の難を救うべき義務があるに、「いかに此の所に・・・ 倉田百三 「学生と先哲」
出典:青空文庫