・・・ しかしながら、もし私がほかに何の仕事もできない人間で、諸君に依頼しなければ、今日今日を食っていけないようでしたら、現在のような仕組みの世の中では、あるいは非を知りながらも諸君に依頼して、パンを食うような道に従って生きようとしたかもしれ・・・ 有島武郎 「小作人への告別」
・・・花田の弟になり切った俺がおまえといっしょにここにいて愁歎場を見せるという仕組みなんだ。どうだ仙人どももわかったか。花田の弟になる俺は生きて行くが、花田の兄貴なるほんとうの花田は死んだことにするんだ。じゃない死ぬことになるんだ。現在死なねばな・・・ 有島武郎 「ドモ又の死」
・・・博奕なら勝ったり負けたりする筈だが、あれは絶対に負ける仕組みだからね。必ず負けると判れば、もう博奕じゃなくて興行か何かだろう。だから検挙して検事局へ廻しても、検事局じゃ賭博罪で起訴出来ないかも知れない、警察が街頭博奕を放任してるのもそのため・・・ 織田作之助 「世相」
・・・それともこんな反省すらもちゃんと予定の仕組で、今もしあの男の影があすこへあらわれたら、さあいよいよと舌を出すつもりにしていたのではなかろうか……」 生島はだんだんもつれて来る頭を振るようにして電燈を点し、寝床を延べにかかった。 ・・・ 梶井基次郎 「ある崖上の感情」
・・・ その仕組みがおもしろい、甲の手紙は乙が読むという事になっていて、そのうちもっともはなはだしい者に罰杯を命ずるという約束である。『もっともはなはだしい』という意味は無論彼らの情事に関することは言わないでも明らかである。 さア初めろと・・・ 国木田独歩 「遺言」
・・・近代の知性は冷やかに死後の再会というようなことを否定するであろうが、この世界をこのアクチュアルな世界すなわち娑婆世界のみに限るのは絶対の根拠はなく、それがどのような仕組みに構成されているかということは恐らく人知の意表に出るようなことがありは・・・ 倉田百三 「人生における離合について」
・・・うと閉店開業というやつで、ほんの少数の馴染客だけ、勝手口からこっそりはいり、そうしてお店の土間の椅子席でお酒を飲むという事は無く、奥の六畳間で電気を暗くして大きい声を立てずに、こっそり酔っぱらうという仕組になっていまして、また、その年増女と・・・ 太宰治 「ヴィヨンの妻」
・・・いよいよ森閑として、読者は、思わずこの世のくらしの侘びしさに身ぶるいをする、という様な仕組みになっていた。 同じ扉の音でも、まるっきり違った効果を出す場合がある。これも作者の名は、忘れた。イギリスのブルウストッキングであるということだけ・・・ 太宰治 「音に就いて」
・・・ぐるりと此の島を大迂回して、陰の港に到着するという仕組なのだろう。そう考えるより他は無いと、私は窮余の断案を下して落ち附こうとしたが、やはり、どうにも浮かぬ気持ちであった。ひょいと前方の薄暗い海面をすかし眺めて、私は愕然とした。実に、意外な・・・ 太宰治 「佐渡」
・・・「ははあ、蝙蝠は、あれは、むかし鳥獣合戦の日に、あちこち裏切って、ずいぶん得して、のち、仕組みがばれて、昼日中は、義理がわるくて外出できず、日没とともに、こそこそ出歩き、それでもやはりはにかんで、ずいぶん荒んだ飛びかたしている。そう・・・ 太宰治 「二十世紀旗手」
出典:青空文庫