・・・ こんないやらしい事をじかにきかなかったのがまだしもの事でございますわ、ほんとうにねえ――第三の女 あんな馬鹿な心配をしたと笑って仕舞う取越苦労だったら、どんなに嬉しいでございましょう――けれどそうは行かない事かもしれませんわ。・・・ 宮本百合子 「胚胎(二幕四場)」
・・・あんたがはじめてやさかえうれしいワ、ほんと……けどあんまり早口やさかえ話が分らん事もあるワ、けど……こんなに今仲ようしててもあんた東京に帰っておしまいやはったらもう、ここ一足はなれたらサッパリ忘れて御仕舞やはるやろナ」「何故そんな事ってある・・・ 宮本百合子 「ひな勇はん」
・・・事実そうなって仕舞わないから困る。さっきのように、まつが『奥様、番町のお使いはおひるからに致しましょうか』と云ってくれば、私は、一種の習慣と女性的本性の発露で、すばやく奥様らしくなり俄に現世的になって、『お前の都合のいい時で結構・・・ 宮本百合子 「文字のある紙片」
出典:青空文庫