・・・仏教では他生の縁というような考え方をするが、かりそめに対すれば、こうしたこともただかりそめの偶然にすぎないけれども、深く思えばいろいろ意味のあることである。結婚などというものは星の数ほどの相手の中から二人が選び出されて結び合うその契機の最大・・・ 倉田百三 「人生における離合について」
・・・喧噪。他生の縁あってここに集い、折も折、写真にうつされ、背負って生れた宿命にあやつられながら、しかも、おのれの運命開拓の手段を、あれこれと考えて歩いている。私には、この千に余る人々、誰ひとりをも笑うことが許されぬ。それぞれ、努めて居るにちが・・・ 太宰治 「もの思う葦」
・・・幾里の登り阪を草鞋のあら緒にくわれて見知らぬ順礼の介抱に他生の縁を感じ馬子に叱られ駕籠舁に嘲られながらぶらりぶらりと急がぬ旅路に白雲を踏み草花を摘む。実にやもののあわれはこれよりぞ知るべき。はた十銭のはたごに六部道者と合い宿の寝言は熟眠を驚・・・ 正岡子規 「旅の旅の旅」
出典:青空文庫