・・・会は非常な盛会で、中には伯爵家の令嬢なども見えていましたが夜の十時頃漸く散会になり僕はホテルから芝山内の少女の宅まで、月が佳いから歩るいて送ることにして母と三人ぶらぶらと行って来ると、途々母は口を極めて洋行夫婦を褒め頻と羨ましそうなことを言・・・ 国木田独歩 「牛肉と馬鈴薯」
・・・自分は容貌の上のみで梅子嬢を思うているのでない、御存知の通り実に近頃の若い女子には稀に見るところの美しい性質を以ておられる、自分は随分東京で種々の令嬢方を見たが梅子嬢ほどの癖のない、すらりとした、すなおなる女を見たことはない。女子の特質とも・・・ 国木田独歩 「富岡先生」
・・・ 音楽会に行って、美しい令嬢のピアノを弾いた知性と魅力のある姿を見た。あるいは席にこぼれ、廊下を歩く娘たちの活々とした、しかし礼儀ある物ごし――寄宿舎に帰っても、美の幻にまだつつまれてるようだ。それは学べよ、磨けよというようだ。 寒・・・ 倉田百三 「学生と生活」
・・・しばらくして、また、どしんと博士にぶつかった美しい令嬢があります。けれども、これもあたりまえです。こんな混雑では、ぶつかるのは、あたりまえのことでございます。なんということも、ございませぬ。令嬢は、通りすぎて行きます。幸福は、まだまだ、おあ・・・ 太宰治 「愛と美について」
・・・とたんに今度は、いよいよ令嬢の出現だ。緑いろの着物を着て、はにかんで挨拶した。私は、その時はじめて、その正子さんにお目にかかったわけである。ひどく若い。そうして美人だ。私は友人の幸福を思って微笑した。「や、おめでとう。」いまに親友の細君・・・ 太宰治 「佳日」
・・・お給仕の令嬢が、まあ、とあきれる。それだけの場面を二十回以上も繰りかえしてテストしているのである。どうにも、おかしくなかった。大笑いどころか、男爵は、にがにがしくさえなった。日本の喜劇には、きまったように、こんな、大めしを食うところや、まん・・・ 太宰治 「花燭」
・・・子息令嬢の思想。満洲国。その他。』――あとの二つは、講談社の本の広告です。近日、短篇集お出しの由、この広告文を盗みなさい。お読み下さい。ね。うまいもんでしょう?私に油断してはいけません。私は貴方の右足の小指の、黒い片端爪さえ知っているのです・・・ 太宰治 「虚構の春」
・・・結婚の相手の令嬢も、疾っくに内定してある。令嬢フィニイはキルヒネツグ領のキルヒネツゲル伯爵夫人になるのが本望である。この社会では結婚前は勿論、結婚してからも、さ程厳重に束縛せられないと云うことを、令嬢は好く知っているのである。 勿論ポル・・・ 著:ダビットヤーコプ・ユリウス 訳:森鴎外 「世界漫遊」
・・・ 信濃町の停留場は、割合に乗る少女の少ないところで、かつて一度すばらしく美しい、華族の令嬢かと思われるような少女と膝を並べて牛込まで乗った記憶があるばかり、その後、今一度どうかして逢いたいもの、見たいものと願っているけれど、今日までつい・・・ 田山花袋 「少女病」
・・・別荘の令嬢たちも踊り出て中には振袖姿の雛様のようなのもあった。見物人もおおぜい集まって来た。中には遠くから自動車で見に来る人もあるらしかった。 年の行かない令嬢が振袖に織物の帯を胸高にしめて踊るのがなんと言ってもこういう民族的の踊りには・・・ 寺田寅彦 「沓掛より」
出典:青空文庫