・・・において、文化運動の内部に発生したこのような敵に対して、仮借なき闘争こそが必要である。同志小林は、この課題に率先して立ち向い、次々に、逞しき諸論策を送った。同志小林は、日和見主義発生の階級的根源を抉発し、日和見主義者の理論と実践とを具体的に・・・ 宮本百合子 「同志小林の業績の評価に寄せて」
・・・ 人道主義的なセンチメンタリズムを蹴たおして、仮借なく現実を踏み越えて生きようとする気組も、作品として十分の落付いた肉づけ、客観的な描破力を伴わないと、結果としては案外に単純な神経性ヒロイズムやスリルの追求に堕す危険をもつのである。・・・ 宮本百合子 「文芸時評」
・・・又、親子の愛というものの固定的な宗教的でさえある評価の観念に対して、ストリンドベリーのように現実の錯雑を個人の生活経験の範囲で能うかぎりの仮借なさでむいて示した作家もある。 これらの人道主義的な個人主義的なヒューマニティの理解の時代は、・・・ 宮本百合子 「夜叉のなげき」
・・・「何事にたいしても仮借しないむきな純一しか持ち合わせていない」と力をこめていい切って、しかも「娘の夢」といわれているもののロマンティックな扮装については自分の内の矛盾として見きわめようとしていない態度を、今日の青年もやはり彼らの夢を育ててく・・・ 宮本百合子 「若い婦人の著書二つ」
・・・しかし不正なるもの不純なるものに対しては毫も仮借する所がなかった。その意味で先生の愛には「私」がなかった。私はここに先生の人格の重心があるのではないかと思う。 正義に対する情熱、愛より「私」を去ろうとする努力、――これをほかにして先生の・・・ 和辻哲郎 「夏目先生の追憶」
・・・足を使っていた少年の彼を師匠は仮借するところなく叱責した。種々に苦心してもなかなか師匠は叱責の手をゆるめない。ある日彼はついに苦心の結果一つのやり方を考案し、それでもなお師匠が彼を叱責するようであれば、思い切り師匠を撲り飛ばして逃亡しようと・・・ 和辻哲郎 「文楽座の人形芝居」
出典:青空文庫