・・・そして近頃、その通りのつき当りに、何という医者だったか屋根の上へ、大万燈のように仰山な電飾広告をつけたのを遙か中空に見上げながら、だらだら坂をのぼって左、神楽坂へ行く。時には、神田辺へ行った帰り、廻って逆に音羽通を戻って来ることなどもある。・・・ 宮本百合子 「茶色っぽい町」
・・・ 時によると、女客が仰山な声で、「あら、いやだ。擽ったいわ!」などと叫んだ。「どう致しまして! これは……その、丁重に致しましたんで……」 或る日のことであった。主人やサーシャが店の裏の小室にいて、店に番頭が一人女客を対・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
・・・ 富田は仰山な声をした。「おい。待ってくれ給え。ついでに跡も端折らないで話し給え。なかなか面白いから。」声を一倍大きくした。「おい。お竹さん。好く聞いて置くが好いぜ。」 始終にやにや笑っていた主人の大野が顔を蹙めた。 戸川は話し・・・ 森鴎外 「独身」
出典:青空文庫