・・・彼はかくばかり迫り合った空気をなごやかにするためにも、しばらくの休戦は都合のいいことだと思ったので、「もうだいぶ晩くなりましたから夕食にしたらどうでしょう」 と言ってみた。それを聞くと父の怒りは火の燃えついたように顔に出た。「馬・・・ 有島武郎 「親子」
・・・「くたびれた。」「休戦を申込む方法はないか。」「そんなことをしてみろ、そのすきに皆殺しになるばかりだ!」「逃げろ! 逃げろ!」 フョードル・リープスキーという爺さんは、二人の子供をつれて逃げていた。兄は十二だった。弟は九・・・ 黒島伝治 「橇」
・・・ 一九一八年十一月の休戦の合図をマリアは研究所にいて聞いた。嬉しさにじっとしていられなくなったマリアが、激しい活動で傷のついている例の自分の車の「小キュリー」に乗ってパリ市中を行進した気持は察するに余りある。 フランスの勝利は、マリ・・・ 宮本百合子 「キュリー夫人」
・・・もし人間に無条件に通じ合う愛というものがあり得るなら、こうやって初冬の晴れた大空を劈いて休戦を告げる数百千の汽笛が鳴り渡るとき、どうして人々は敗けて、而も愛するものを喪った人々の思いを察しようとしないのだろう。歓呼のうちに自分の声も合せなが・・・ 宮本百合子 「時代と人々」
・・・十一月十一日、ニューヨークの小さなホテルの露台に立ってヨーロッパ大戦休戦当日の光景を見下ろした。一九一〔九〕年ニューヨークで結婚。「美しき月夜」十二月帰朝。一九二〔〇〕年この年から足かけ四・・・ 宮本百合子 「年譜」
・・・今日は休戦記念日じゃない。事務的なロンドン人は邪魔っけそうにその銀行前に突立つ記念碑をよけて急ぎ歩いた。枯れた花輪が根のところにあった。いくつもの空の花立はひっくり返って、白い鳩の糞だらけだ。そして三角州の突端、騎馬のウェリントン公爵像は背・・・ 宮本百合子 「ロンドン一九二九年」
出典:青空文庫