・・・続いて、一般の会葬者が、ぽつぽつ来はじめた。休所の方を見ると、人影がだいぶんふえて、その中に小宮さんや野上さんの顔が見える。中幅の白木綿を薬屋のように、フロックの上からかけた人がいると思ったら、それは宮崎虎之助氏だった。 始めは、時刻が・・・ 芥川竜之介 「葬儀記」
・・・ * * * 越えて二日目、葬式は盛んに営まれて、喪主に立った若後家のお光の姿はいかに人々の哀れを引いたろう。会葬者の中には無論金之助もいたし、お仙親子も手伝いに来ていたのである。 で、葬式の済むまで・・・ 小栗風葉 「深川女房」
・・・上塩町に三十年住んで顔が広かったからかなり多かった会葬者に市電のパスを山菓子に出し、香奠返しの義理も済ませて、なお二百円ばかり残った。それで種吉は病院を訪ねて、見舞金だと百円だけ蝶子に渡した。親のありがたさが身に沁みた。柳吉の父が蝶子の苦労・・・ 織田作之助 「夫婦善哉」
・・・自分は母を見ても妹を見ても、普通の会葬者を見るのと何の変もなかった。 三百円を受けた時は嬉しくもなく難有くもなく又厭とも思わず。その中百円を葬儀の経費に百円を革包に返し、残の百円及び家財家具を売り払った金を旅費として飄然と東京を離れて了・・・ 国木田独歩 「酒中日記」
・・・ 子規の葬式の日、田端の寺の門前に立って会葬者を見送っていた人々の中に、ひどく憔悴したような虚子の顔を見出したことも、思い出すことの一つである。 千駄木町の夏目先生の御宅の文章会で度々一処になった。文章の読み役は多く虚子が勤めた。少・・・ 寺田寅彦 「高浜さんと私」
・・・死んだ人を目当てにしたものか、遺族ないしは会葬者に対して読まれるものだろうか、それとも死者に呼びかける形式で会葬者に話しかけるものだろうか。あるいは読む人の心持だけのものであるか。 いずれにしてもあれはもう少し何とかならないものだろうか・・・ 寺田寅彦 「鑢屑」
・・・キングは名代を遣わして参列させ、その他ケンブリッジ大学や王立協会の主要な人々も会葬し、荘園の労働者は寺の門前に整列した。墓はターリング・プレースの花園に隣った寺の墓地の静かな片隅にある。赤い砂岩の小さな墓標には "For now we se・・・ 寺田寅彦 「レーリー卿(Lord Rayleigh)」
・・・死骸の引取り、会葬者の数にも干渉する。秘密、秘密、何もかも一切秘密に押込めて、死体の解剖すら大学ではさせぬ。できることならさぞ十二人の霊魂も殺してしまいたかったであろう。否、幸徳らの躰を殺して無政府主義を殺し得たつもりでいる。彼ら当局者は無・・・ 徳冨蘆花 「謀叛論(草稿)」
・・・新聞によれば、何千人かの会葬者があったらしい。同君は何処かにえらい所があったのだと思う。 右のような訳で、高校時代には、活溌な愉快な思出の多いのに反し、大学時代には先生にも親しまれず、友人というものもできなかった。黙々として日々図書室に・・・ 西田幾多郎 「明治二十四、五年頃の東京文科大学選科」
・・・人の足音や車の軋る音で察するに会葬者は約百人、新聞流でいえば無慮三百人はあるだろう。先ずおれの葬式として不足も言えまい。…………………アアようよう死に心地になった。さっき柩を舁き出されたまでは覚えて居たが、その後は道々棺で揺られたのと寺で鐘・・・ 正岡子規 「墓」
出典:青空文庫