・・・ただそれは、当時の天主教徒の一人が伝聞した所を、そのまま当時の口語で書き留めて置いた簡単な覚え書だと云う事を書いてさえ置けば十分である。 この覚え書によると、「さまよえる猶太人」は、平戸から九州の本土へ渡る船の中で、フランシス・ザヴィエ・・・ 芥川竜之介 「さまよえる猶太人」
・・・その後伊吹山に観測所が設置された事を伝聞した時にも、そこの観測の結果に対して特別な期待をいだいたわけであった。 冬季における伊吹山地方の気象状態を考える前には、まずこの地方の地勢を明らかにしておく必要がある。琵琶湖の東北の縁にほぼ平行し・・・ 寺田寅彦 「伊吹山の句について」
・・・分等より一年前のクラスで、K先生という、少し風変り、というよりも奇行を以て有名な漢学者に教わった友人達の受売り話によって、孔子の教えと老子の教えとの間に存する重大な相違について、K先生の奇説なるものを伝聞し、そうして当時それを大変に面白いと・・・ 寺田寅彦 「変った話」
・・・ 官海遊泳術というものについてその道に詳しい人の話だというのを伝聞したことがある。それによると学校を卒業して役所へはいって属僚になってもあまり一生懸命にまじめに仕事をするとかえっていけない、そうかと言ってなまけても無論いけないのだそうで・・・ 寺田寅彦 「「手首」の問題」
・・・ 伝聞するところによると現代物理学の第一人者であるデンマークのニエルス・ボーアは現代物理学の根本に横たわるある矛盾を論じた際に、この矛盾を解きうるまでにわれわれ人間の頭はまだ進んでいないだろうという意味の事を言ったそうである。こ・・・ 寺田寅彦 「化け物の進化」
・・・ 明治年間池塘に居を卜した名士にして、わたくしの伝聞する所の者を挙ぐれば既に述べた福地桜痴小野湖山の他には篆刻家中井敬所と箕作秋坪との二人があるのみである。 わたくしは甚散漫ながら以上の如く明治年間の上野公園について見聞する所を述べ・・・ 永井荷風 「上野」
・・・もとは貧乏士族が内職に焼いたとさえ伝聞している。津田君が三十匁の出殻を浪々この安茶碗についでくれた時余は何となく厭な心持がして飲む気がしなくなった。茶碗の底を見ると狩野法眼元信流の馬が勢よく跳ねている。安いに似合わず活溌な馬だと感心はしたが・・・ 夏目漱石 「琴のそら音」
ある人いわく、慶応義塾の学則を一見し、その学風を伝聞しても、初学の輩はもっぱら物理学を教うるとのこと、我が輩のもっとも賛誉するところなれども、学生の年ようやく長じて、その上級に達する者へは、哲学・法学の大意、または政治・経・・・ 福沢諭吉 「経世の学、また講究すべし」
・・・ 試に今日女子の教育を視よ、都鄙一般に流行して、その流行の極、しきりに新奇を好み、山村水落に女子英語学校ありて、生徒の数、常に幾十人ありなどいえるは毎度伝聞するところにして、世の愚人はこれをもって教育の隆盛を卜することならんといえども、・・・ 福沢諭吉 「文明教育論」
出典:青空文庫