・・・すると今まで針のように鋭くなっていた自分の神経は次第に柔らいで、名状のできない穏やかな伸びやかな心持ちが全身に行き渡る。始めて快いあくびが二つ三つつづけて出る。ちょうどそのころに枕もとのガラス窓――むやみに丈の高い、そして残忍に冷たい白の窓・・・ 寺田寅彦 「病院の夜明けの物音」
・・・もっと自然に、もっと伸びやかな人間らしさを求めるためには、自身の生きる社会環境を変え、人生と文学との理解においても、一つの歴史的な飛躍をとげなければならなかった。 この困難な、けれども正直に生きるすべてのものにとって避けることの出来ない・・・ 宮本百合子 「あとがき(『伸子』第一部)」
子供の本を買いに行って、いつも当惑する一つのことがある。それは、どの本も一つの頁へあんまりどっさりの内容をつめこもうとして、絵でも実にこせついていて、子供らしい感覚の伸びやかさが無視されていることである。 うちの小さい・・・ 宮本百合子 「“子供の本”について」
・・・崇福寺の建物は、狭いところに建てられている故か、大切な柱廊が、その通景に余韻を生ぜしむるだけ堂々と伸びやかに横わっていない。浅く、ただ礼拝する寺で、精神の活躍する場所として必要な底強いゆとりが建築上欠けているという印象である。木材が一面朱塗・・・ 宮本百合子 「長崎の印象」
出典:青空文庫