・・・一つには紋切型に頼っても平気だという彼等の鈍重な神経のせいであって、われわれが聴くに堪えぬエスプリのない科白を書いても結構流行劇作家で通り、流行シナリオ・ライターで通っているという日本の劇壇、映画界の低俗さには、言うべき言葉もない。しかし、・・・ 織田作之助 「大阪の可能性」
・・・というような題の小説を書くほどの神経の逞しさを持っていながら、座談会に出席すると、この頃の学生は朝に哲学書を読み、夕に低俗なる大衆小説を読んでいるのは、日本の文化のためになげかわしいというような口を利いて、小心翼々として文化の殉教者を気取る・・・ 織田作之助 「可能性の文学」
・・・むろんこれらの作品は低俗かも知れない。しかし、すくなくと反俗であり、そして、よしんば邪道とはいえ、新しい小説のスタイルを作りあげようという僕の意図は、うぬぼれでなしに、読みとれる筈だ。しかし、僕はこのようなスタイルが黙殺されたことを、悲しま・・・ 織田作之助 「文学的饒舌」
・・・古今東西を通じて、かかるみじめなる経験に逢いし武芸者は、おそらくは一人もあるまじと思えば、なおのこと悲しく相成候て、なにしろあれは三百円、などと低俗の老いの愚痴もつい出て、落花繽紛たる暗闇の底をひとり這い廻る光景に接しては、わが敵手もさすが・・・ 太宰治 「花吹雪」
・・・に対する批判的感想として、正しい思想はよしんば各個人の実生活における態度と一致していないでも、思想そのものとして、実生活と一致している低俗な思想より価値が高いということを、主張されている。これは、「麦死なず」に於て、五十嵐が牧野を酷評するモ・・・ 宮本百合子 「落ちたままのネジ」
・・・い心持の身じろぎを捕える芸術の社会性、そのような今日の顕著な人間性のリアリティーをもち得なくなったことから、従来の一部の作家が文学の大衆化を叫び出し、しかも大衆というものの誤った理解から誤った通俗化、低俗化への道を辿りはじめ、文学そのものを・・・ 宮本百合子 「今日の文学に求められているヒューマニズム」
・・・この傾向は、自然主義が日本に移植されてから、その社会的事情に従って次第に低俗な写実主義に陥って来ている文学の伝統と計らずも微妙な結合を遂げ、今日一部の作家に見られる些末的な、或は批判なき風俗小説を生むに至っている。散文精神という言葉はこれら・・・ 宮本百合子 「今日の文学の鳥瞰図」
・・・を提唱したのであったが、氏によって云われた主観性というものも、低俗な他力主義に対する主観の能動性の強調の範囲にとどまり、主観の内容は十分諒解させ得なかった。「理論への情熱」も同様であった。かかる観念の上に道を求めたヒューマニズムが、日常不本・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・女性が常識のなかで実利的にばかりなってしまったり、固着した低俗に陥ってしまったりしては悲しいと思う。因幡の兎のようにされたわたしの同級の可哀そうな插話にしろ、もしあの時代の令嬢たちが、卒業すればあとにはお嫁に行くことしか目標がないような教育・・・ 宮本百合子 「歳月」
・・・内部の運営が民主的でないこと、プログラム編成が低俗であり昨今は労働、農民、報道、子供のための放送にはっきり民主化からの後退が示されてきていることが世論にのぼっている。しかし、こんど上程された法案のように保守政党が占める両院の承認を経た五年間・・・ 宮本百合子 「三年たった今日」
出典:青空文庫