・・・ 小屋はずいぶん頑丈で、学校ぐらいもあるのだが、何せ新式稲扱器械が、六台もそろってまわってるから、のんのんのんのんふるうのだ。中にはいるとそのために、すっかり腹が空くほどだ。そしてじっさいオツベルは、そいつで上手に腹をへらし、ひるめしど・・・ 宮沢賢治 「オツベルと象」
・・・ええボートはきっと助かったにちがいありません、何せよほど熟練な水夫たちが漕いですばやく船からはなれていましたから。」 そこらから小さないのりの声が聞えジョバンニもカムパネルラもいままで忘れていたいろいろのことをぼんやり思い出して眼が熱く・・・ 宮沢賢治 「銀河鉄道の夜」
・・・ずいぶん急がして済まなかったね。何せ今日から開業で、新聞にも広告したもんだからね。」ペンキ屋「はあ、それでようございましょうか。」爾薩待「ああ、いいとも、立派にできた。あのね、お金は月末まで待って呉れ給え。」ペンキ屋「あのう、実・・・ 宮沢賢治 「植物医師」
・・・ そのときは犬もすっかりしょげかえって眼を細くして座っていた。 何せこの犬ばかりは小十郎が四十の夏うち中みんな赤痢にかかってとうとう小十郎の息子とその妻も死んだ中にぴんぴんして生きていたのだ。 それから小十郎はふところからとぎす・・・ 宮沢賢治 「なめとこ山の熊」
・・・もっともごくごく上等のやつをほしいのです。何せ相手がグリーンランドの途方もない成金ですから、ありふれたものじゃなかなか承知しないんです。」大学士は葉巻を横にくわえ、雲母紙を張った天井を、斜めに見上げて聴いていた。「たびたびご・・・ 宮沢賢治 「楢ノ木大学士の野宿」
・・・けれども何せ売れば二、三百にはなるんです。誰だって惜しいとは思います。耕牧舎でもこっそりそれを売っているらしいというんです。行って見て来いってうわけでバキチが剣をがちゃつかせ、耕牧舎へやって来たでしょう。耕牧舎でもじっさい困ってしまったので・・・ 宮沢賢治 「バキチの仕事」
・・・ その式場を覆う灰色の帆布は、黒い樅の枝で縦横に区切られ、所々には黄や橙の石楠花の花をはさんでありました。何せそう云ういい天気で、帆布が半透明に光っているのですから、実にその調和のいいこと、もうこここそやがて完成さるべき、世界ビジテリア・・・ 宮沢賢治 「ビジテリアン大祭」
・・・僕の計算によると、どうしても近いうちに噴き出さないといかんのだがな。何せ、サンムトリの底の瓦斯の圧力が九十億気圧以上になってるんだ。それにサンムトリの一番弱い所は、八十億気圧にしか耐えない筈なんだ。それに噴火をやらんというのはおかしいじゃな・・・ 宮沢賢治 「ペンネンネンネンネン・ネネムの伝記」
・・・「ま、何せ、旅費位、どうでもなるんやさかい、 ほんにいんどくなはれな。 今、十五六円ばかり、すっかりで、ありまっさかい。そい持ってお行きやはったら、ようおっしゃろ。 仕事の手間や何かで、私など、どうでもして行かれまっから・・・ 宮本百合子 「栄蔵の死」
・・・人のお心が荒立って、力ずくでも と法王様がついお洩しになったのをお気のつかぬ間に陛下がお伝え知りなされたのが事の始りで今ではもう火をかけた爆薬の様にまことにはや危い御様子じゃとな……。何せ苦々しい事でござるわ。第三の女 ・・・ 宮本百合子 「胚胎(二幕四場)」
出典:青空文庫