・・・の金沓を貰うとき、なんとかかんとかごまかして、ゴム靴をもう一足受け取る、それから、馬がそれを犬に渡す、犬が猫に渡す、猫がただの鼠に渡す、ただの鼠が野鼠に渡す、その渡しようもいずれあとでお礼をよこせとか何とか、気味の悪い語がついていたのでしょ・・・ 宮沢賢治 「蛙のゴム靴」
・・・ 婦人問題、その問題を何とか解決してゆこうとする婦人運動。それは永年日本にも存在していた。けれども、それらの婦人運動は、婦選運動をもふくめて、まことに微々たるものであった。そういう運動に携っている婦人たちに対して、一般の婦人が一種皮肉な・・・ 宮本百合子 「合図の旗」
・・・それあの何とかいう爺いさんがいたっけなあ。勝安芳よ。勝なんぞも苦労をしたが、内の親父も苦労をしたもんだ。同じ苦労をしても、勝は靱い命を持っていやぁがるから生きていた。親父はこっくり行き着いたのだ。病気も何もないのに死んだのだ。兄きは大鳥圭介・・・ 森鴎外 「里芋の芽と不動の目」
・・・他の文句など全く不必要なこんなときでも、まだ何とかかとか人は云い出す運動体だということ、停ったかと思うと直ちに動き出すこのルーレットが、どの人間の中にも一つずつあるという鵜飼い――およそ誰でも、自分が鵜であるか、鵜の首を握っている漁夫である・・・ 横光利一 「鵜飼」
・・・こんな日ならば気軽に出かける気持ちになるであろう、出かけさえすればあとは何とかなるであろう、と思ったのである。鵠沼から牛込までさそいに行ったのであるから、漱石山房へついた時にはもう十時ごろになっていた。玄関へ出て来た漱石は、私の突飛さにちょ・・・ 和辻哲郎 「漱石の人物」
出典:青空文庫