・・・あの男のどこが、こんなに己の注意を惹いたのだか、己の部屋に這入っていた時間が余り短かったので、なんとも判断しにくい。目は青くて、妙な表情をしていた。なんでもずっと遠くにある物を見ているかと思うように、空を見ていた。悲しげな目というでもない。・・・ 著:ランドハンス 訳:森鴎外 「冬の王」
・・・元から余り気に入らない。なんだか病身らしくて、こわれもののような気がするので親み難い。それに感情が鋭敏過ぎて、気味の悪いような、自分と懸け離れているような所がある。それだから向うへ着いて幾日かの間は面倒な事もあろうし、気の立つような事もあろ・・・ 著:リルケライネル・マリア 訳:森鴎外 「白」
・・・ 彼と父親とがそうして土下座しているところへ、七十余りになる老人が、仏前に供えた造花の花を二枝手に持って、泣きながらやって来ました。「おじいさんの永生きにあやかりとうてな、こ、こ、これを、もろうて来ました。なあ、おじいさんは永生きじゃっ・・・ 和辻哲郎 「土下座」
出典:青空文庫