・・・ 映画素材から映画を作り上げる編集方法としてのモンタージュはそもそも映画始まって以来行なわれて来たものに相違ないのであるが、しかし初期の映画において、単に海岸に打ち寄せる波の遊びを見せたり、あるいは舞台演芸をそっくりそのまま写してみたり・・・ 寺田寅彦 「映画芸術」
・・・おそらく彼らはアメリカ式もドイツふうも完全に消化した上で、新しい純粋国民映画を作り上げるであろう。光琳や芭蕉は少数向きの芸術映画、歌麿や西鶴は大衆向きのエロチシズム、写楽や京伝は社会的な諷刺画とでもいった役割ででもあろうか。また広重をして新・・・ 寺田寅彦 「映画時代」
・・・しかし、せめて大新聞の記者だけでも、たとえ具体的の科学知識はもたずとも、一人の学者の科学的研究というものはたとえて言わば道ばたに落ちた財布を拾うたような簡単なものではなくてたとえばツェペリンの骨組みを作り上げるための一本一本のリベットにたん・・・ 寺田寅彦 「ジャーナリズム雑感」
・・・そうしてこの困難に当面して立派なものを作り上げるには、単に句作にすぐれたメンバーがそろっただけでは不十分であって、どうしても芭蕉ほどの統率的人傑を要する理由もわかってくるであろう。 こういう点からまた私のここで仮想しているような連句の指・・・ 寺田寅彦 「連句雑俎」
・・・これほどの骨折は、ただに病中の根気仕事としてよほどの決心を要するのみならず、いかにも無雑作に俳句や歌を作り上げる彼の性情から云っても、明かな矛盾である。思うに画と云う事に初心な彼は当時絵画における写生の必要を不折などから聞いて、それを一草一・・・ 夏目漱石 「子規の画」
・・・ この時私は始めて文学とはどんなものであるか、その概念を根本的に自力で作り上げるよりほかに、私を救う途はないのだと悟ったのです。今までは全く他人本位で、根のない萍のように、そこいらをでたらめに漂よっていたから、駄目であったという事によう・・・ 夏目漱石 「私の個人主義」
・・・即ちその人は色々時代的な感興を享けるのでなくて、時代の中にあるものを吸って真の時代に混和させ、而して自分を作り上げるのです。時代通りにすることは無意味です。然しするもしないも自分の誠心一つではあるが、この真の時代と混和した心持こそ、初めてそ・・・ 宮本百合子 「今日の女流作家と時代との交渉を論ず」
・・・ 刺繍をした黒天鵞絨の着物などを見ましたが、これは作り上げるのに幾年もかかるので、オタカラと云って大事にしています。 アイヌ婦人は柔順で人に話しかけられても、じっと俯きながら聞かれただけの事を返事する位であります。其の風俗も今日では・・・ 宮本百合子 「親しく見聞したアイヌの生活」
出典:青空文庫