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・・・家屋敷を拝領して、作事までも上からしむけられる。先代が格別入懇にせられた家柄で、死天の旅のお供にさえ立ったのだから、家中のものが羨みはしても妬みはしない。 しかるに一種変った跡目の処分を受けたのは、阿部弥一右衛門の遺族である。嫡子権兵衛・・・
森鴎外
「阿部一族」
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・・・ 現場に落ちていた刀は、二三日前作事の方に勤めていた五瀬某が、詰所に掛けて置いたのを盗まれた品であった。門番を調べてみれば、卯刻過に表小使亀蔵と云うものが、急用のお使だと云って通用門を出たと云うことである。亀蔵は神田久右衛門町代地の仲間・・・
森鴎外
「護持院原の敵討」