犬養君の作品は大抵読んでいるつもりである。その又僕の読んだ作品は何れも手を抜いたところはない。どれも皆丹念に出来上っている。若し欠点を挙げるとすれば余り丹念すぎる為に暗示する力を欠き易い事であろう。 それから又犬養君の・・・ 芥川竜之介 「犬養君に就いて」
・・・それが書く気になったのは、江口や江口の作品が僕等の仲間に比べると、一番歪んで見られているような気がしたからだ。こんな慌しい書き方をした文章でも、江口を正当に価値づける一助になれば、望外の仕合せだと思っている。・・・ 芥川竜之介 「江口渙氏の事」
・・・彼らは第四階級以外の階級者が発明した論理と、思想と、検察法とをもって、文芸的作品に臨み、労働文芸としからざるものとを選り分ける。私はそうした態度を採ることは断じてできない。 もし階級争闘というものが現代生活の核心をなすものであって、それ・・・ 有島武郎 「宣言一つ」
・・・俺たちは真実の世界に立脚して、根強い作品を創り出さなければならないんだ。だから……俺は残念ながら腹がからっぽで、頭まで少し変になったようだ。とも子 生蕃さんはふだんあんまり大食いをするから、こんな時に困るんだわ。……それにしてもどうして・・・ 有島武郎 「ドモ又の死」
・・・ 鴾の作品の扱い方をとがめたのではない、お妻の迷をいたわって、悟そうとしたのである。「いいえ、浅草の絵馬の馬も、草を食べたというじゃありませんか。お京さんの旦那だから、身贔屓をするんじゃあないけれど、あれだけ有名な方の絵が、このくら・・・ 泉鏡花 「開扉一妖帖」
・・・椿岳の作品 が、画かき根性を脱していて、画料を貪るような卑しい心が微塵もなかった代りに、製作慾もまた薄かったようだ。アレだけの筆力も造詣もありながら割合に大作に乏しいのは畢竟芸術慾が風流心に禍いされたのであろう。椿岳を大ならしめたの・・・ 内田魯庵 「淡島椿岳」
・・・且文芸上の作品の価値は区々の秤尺に由て討議し、又選票の多寡に由て決すべきもので無いから、文芸審査の結果が意料外なるべきは初めから予察せられる。之を重視するのが誤まっておるのだが、二十五六年前には全然社会から無視せられていた文芸の存在を政府が・・・ 内田魯庵 「二十五年間の文人の社会的地位の進歩」
・・・ 読んで見て、如何にも気持がよく出て居て、巧みに描き出してあると思う作品は沢山あるけれども、粛然として覚えず襟を正し、寂しみを感じさせるような作品は極めて少ないように思う。 併し古い例であるが、故独歩の作品中のある物の如きは、読んで・・・ 小川未明 「動く絵と新しき夢幻」
・・・ 小露地方や、北コーカサスの自然は、詩趣に富んで、自由な気が彼等の村落生活に行きわたっていることは、トルストイ、ゴリキイ、其他の作家の作品に描かれている。フィンランドは、世界中で、一番生活のしよい処だということであった。而して陰惨なペト・・・ 小川未明 「北と南に憧がれる心」
・・・これは私自身まだ京都弁というものを深く研究していないから、多くの作家の作品の中に書かれた京都弁の違いを、見分けることが出来ないのだろうとも、一応考えられるけれども、一つには、京都弁そのものが変化に乏しく、奥行きが浅く、ただ紋切型をくりかえし・・・ 織田作之助 「大阪の可能性」
出典:青空文庫