・・・別けて申上げまするが、これから立女役がすべて女寅が煩ったという、優しい哀れな声で、ものを言うのでありまするが、春葉君だと名代の良い処を五六枚、上手に使い分けまして、誠に好い都合でありますけれども、私の地声では、ちっとも情が写りますまい。その・・・ 泉鏡花 「湯女の魂」
・・・少年は熱心に美しい絵の具箱の中に収めてあるいろいろの絵の具を一つ一つ使い分けて草を描いたり、また鳥などを描いたり、花などを描いたりしていました。 光治は自分の吹く笛の音につれて、小鳥がいっしょになってさえずるのを自慢にしていました。いま・・・ 小川未明 「どこで笛吹く」
・・・という言葉の意味の使い分けである事は勿論である。 アインシュタインの仕事の偉大なものであり、彼の頭脳が飛び離れてえらいという事は早くから一部の学者の間には認められていた。しかし一般世間に持て囃されるようになったのは昨今の事である。遠い恒・・・ 寺田寅彦 「アインシュタイン」
・・・それなのに、活字の大小の使い分けや、文章の巧妙なる陰影の魔力によって読者読後の感じは、どうにも、書いてある事実とはちがったものになるのである。実に驚くべき芸術である。こういうのがいわゆるジャーナリズムの真髄とでもいうのであろう。 ついこ・・・ 寺田寅彦 「錯覚数題」
・・・そしてハンケチや扇にいろいろの表情を使い分けて見せるのであった。十二時過ぎに出帆するとき見送りの船で盛んに爆竹を鳴らした。 甲板へズックの日おおいができた。気温は高いが風があるのでそう暑くはない。チョッキだけ白いのに換える。甲板の寝椅子・・・ 寺田寅彦 「旅日記から(明治四十二年)」
・・・同じ人で静物は甲の仏人、人物は乙の仏人といったように真似の使い分けをしているのもある。 椎塚氏の絵には何時もながら閉口するが、しかしこの人は、別にこれらの絵を人に見せて賞めてもらうために描いているらしく見えないところを頼もしく思う。・・・ 寺田寅彦 「二科会その他」
・・・ただ人を非難したり弁護したりする時や、あるいは金を集めたり出したりする時に使い分けて便利なものだからだれでも日常使ってはいるが、今自分の言っているような根本の問題にはなんの役にも立たないものである。だれかこの疑問に対して自分のふに落ちるよう・・・ 寺田寅彦 「丸善と三越」
・・・西、両国、東、小柳と呼ぶ呼出し奴から行司までを皆一人で勤め、それから西東の相撲の手を代り代りに使い分け、果は真裸体のままでズドンと土の上に転る。しかしこれは間もなく警察から裸体になる事を禁じられて、それなり縁日には来なくなったらしい。・・・ 永井荷風 「伝通院」
出典:青空文庫