・・・「それでは、何の用に立つんだか、使い方を知っているのかえ。」 迂濶知らないなぞと言おうものなら、使い方を見せようと、この可恐しい魔法の道具を振廻されては大変と、小宮山は逸早く、「ええ、もう存じておりますとも。」 と一際念入り・・・ 泉鏡花 「湯女の魂」
・・・特にワグマンについて真面目に伝習したとは思われないが、ブラシの使い方や絵具の用法等、洋画のテクニックの種々の知識を教えられた事はあるようだ。明治八、九年頃の画家番附に淡島椿岳の上に和洋画とあるのを以て推すと、洋画家としてもまた相応に認められ・・・ 内田魯庵 「淡島椿岳」
・・・「人間は、ああして、馬や、牛をずいぶん思いきった使い方をしているが、幸いに馬や、牛がものをいえないからいいようなものの、もし馬や、牛が、ものがいえたら、きっとそんな使い方はできないだろう。けっして、黙ってはいないからね。ものがいえないで・・・ 小川未明 「あらしの前の木と鳥の会話」
・・・このような原稿を伏字なしに書くには字句一つの使い方にも細かい神経を要する。武田さんが書き悩んでいるわけもうなずけるのだった。「僕がおっては邪魔でしょう」 と、出ようとすると、「いや、居ってくれんと淋しくて困るんだ。なアに書きゃい・・・ 織田作之助 「四月馬鹿」
・・・ 五十吉はずいぶん派手なところを見せ、椙の機嫌とるための芝居見物にも思いきった使い方するのを、椙はさすがに女でまんざらでもないらしかった。 五十吉は翌日また渋い顔をしてやってくると風呂敷包みを受け取るなり、見たな。登勢の顔をにらんだ・・・ 織田作之助 「螢」
・・・ そして、班長のサル又や襦袢の洗濯をさせられたり、銃の使い方や、機関銃や、野砲の撃ち方を習う。毎朝点呼から消燈時間まで、勤務や演習や教練で休むひまがない。物を考えるひまがない。工場や、農村に残っている同志や親爺には、工場主の賃銀の値下げ・・・ 黒島伝治 「入営する青年たちは何をなすべきか」
・・・「この晴雨計の使い方を知っているかね、一つ測って見給え」などと云った。別れ際に「ぜひ紹介したい人があるから今晩宅へ来てくれ」と云って独りで勝手に約束をきめてしまった。 約束の時刻に尋ねて行った。入口で古風な呼鈴の紐を引くと、ひとりで戸が・・・ 寺田寅彦 「異郷」
・・・自分がいつも繰り返して言うようにもし映画製作者に多少でも俳諧連句の素養があらば、こういうところでいくらでも効果的な材料の使い方があるであろうと思われるのである。 早打ちの使者の道中を見せる一連の編集でも連句的手法を借りて来ればどんなにで・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(3[#「3」はローマ数字、1-13-23])」
・・・第二には群衆の使い方が拙である。おおぜいの登場者の配置に遠近のパースペクチーヴがなく、粗密のリズムがないから画面が単調で空疎である。たとえば大評定の場でもただくわいを並べた八百屋の店先のような印象しかない。この点は舶来のものには大概ちゃんと・・・ 寺田寅彦 「映画時代」
・・・ 二十年前に見た時に感心したのは売り手のじいさんの団扇の使い方の巧妙なことであった。団扇の微妙な動かし方一つでおどけた四角の紙の獅子が、ありとあらゆる、「いわゆる獅子」の姿態をして見せる。つくづく見ていると、この紙片に魂がはいって、ほん・・・ 寺田寅彦 「錯覚数題」
出典:青空文庫