・・・意識の内容に変化のないほどの苦しみはない。使える身体は目に見えぬ縄で縛られて動きのとれぬほどの苦しみはない。生きるというは活動しているという事であるに、生きながらこの活動を抑えらるるのは生という意味を奪われたると同じ事で、その奪われたを自覚・・・ 夏目漱石 「倫敦塔」
・・・換言すると、あなた方が世間へ出れば、貧民が世の中に立った時よりも余計権力が使えるという事なのです。前申した、仕事をして何かに掘りあてるまで進んで行くという事は、つまりあなた方の幸福のため安心のためには相違ありませんが、なぜそれが幸福と安心と・・・ 夏目漱石 「私の個人主義」
・・・六原に居たんじゃ馬は使えるだろうな。」「使えます。」「いつまでこっちに居るつもりだい。」「ずっと居ますよ。」「そうか。」農夫長はだまってしまいました。 一人の農夫が兵隊の古外套をぬぎながら入って来ました。「場長は帰っ・・・ 宮沢賢治 「耕耘部の時計」
・・・二つはそのまま使えるしもう四つだけころがせばいい、まずおれは靴をぬごう。ゴム靴によごれた青の靴下か。〔一寸待って、今渡るようにしますから。〕この石は動かせるかな。流紋岩だかなりの比重だ。動くだろう。水の中だし、アルキメデス、水の中だし、・・・ 宮沢賢治 「台川」
・・・ 十円の金は十円の金で、どうでも使える。死金にもなり、悪銭にもなり、義捐金にもなれば、自殺の旅費にもなるのである。どっちみち一夕十円標準でやろうと名をつけているのが、文壇人の経済事情、生存感情の推移とその現代性を語っている。菊池寛、久米・・・ 宮本百合子 「「大人の文学」論の現実性」
・・・そこでキュリー夫人は活動を開始して先ず大学の幾つかの研究室にある幾つかのX光線装置に、自分の分をも加えた目録を作り、続いてその製造者たちのところを一巡して、X光線の材料で使えるだけのものをことごとく集め、パリ地方のそれぞれの病院に配布される・・・ 宮本百合子 「キュリー夫人」
・・・人民の使える金は、「五人家族五百円標準」ときめて、金を銀行、郵便局へ封鎖し、生きるために欠くことの出来ない生活必需費を、グイ、グイとつり上げている。私たちが、自分たちの頸のまわりで繩が段々締って行くように感じるのが、間違っているだろうか。・・・ 宮本百合子 「現実の必要」
・・・福のために電車や電気アイロンにしてきたというお話がございましたが、そういう天然の力でさえも自分達は自分の幸福のために使うのですから、人間がこれまで生きて参りました歴史などは、もちろん私共の幸福のために使えるものでありますし、またいわば歴史そ・・・ 宮本百合子 「幸福の建設」
・・・米、味噌、醤油のような生活必需物資の値段は、私たちが使えるお金に制限をうけてから、グッと三倍に上りました。勤めにゆくため、学校へゆくため、是非乗らなければならない省線、都電、バスなど、交通費もみんな三倍になりました。今の配給だけで、やって行・・・ 宮本百合子 「幸福のために」
・・・私達の使っている燃料とその燃料が使えるようなかまど、いもや粉の代用食、これ等総ては近代的でしょうか。私達のおばあさん、ひいおばあさん達がまぶたをただらせてくすぶらせたその台所の生活が一九四七年の日本の首府東京の家々の台所となっています。婦人・・・ 宮本百合子 「今度の選挙と婦人」
出典:青空文庫