・・・かりに、これを借りることも、規律正しく使用するに於ては、ために一木一草を損うことなくすむであろう。 かゝる正義の行使は、今日の社会として、当然持たなければならぬ権利である。なぜならば、児童等は、両親のものなると共に、また社会のものである・・・ 小川未明 「児童の解放擁護」
・・・ これに較べると、昔の和本は、生紙を使用して木版で摺られている。そして、糸で綴られていて、一見不器用だけれど、手工業時代の産物としての趣味があり、一種の芸術味が存している。中には絵などが入っていて、一層の情趣を添えるのもあって、まことに・・・ 小川未明 「書を愛して書を持たず」
・・・飲む方も催眠剤に珈琲を使用するようでは、全く憂鬱だろうが、そんな風に飲まれる珈琲も恐らく憂鬱であろう。 それと同じでんで、大阪を書くということは、例えば永井荷風や久保田万太郎が東京を愛して東京を書いているように、大阪の情緒を香りの高い珈・・・ 織田作之助 「大阪の憂鬱」
・・・しかも、この総勘定はそのまま封鎖の中に入れられ、もはや新しい生活の可能性に向って使用されることがない。彼等の文学のうち、比較的ましな文学の中には彼等がいかに生きて来たかということは書かれているだろうが、いかに生くべきかという可能性は描かれて・・・ 織田作之助 「可能性の文学」
・・・例の椀大のブリキ製の杯、というよりか常は汁椀に使用されているやつで、グイグイあおりながら、ある者は月琴を取り出して俗歌の曲を唄いかつ弾き、ある者は四竹でアメリカマーチの調子に浮かれ、ある者は悲壮な声を張り上げてロングサインを歌っている、中に・・・ 国木田独歩 「遺言」
・・・「寧ろこの使用い古るした葡萄のような眼球をり出したいのが僕の願です!」と岡本は思わず卓を打った。「愉快々々!」と近藤は思わず声を揚げた。「オルムスの大会で王侯の威武に屈しなかったルーテルの胆は喰いたく思わない、彼が十九歳の時学友・・・ 国木田独歩 「牛肉と馬鈴薯」
・・・ それを知っている青年達は中隊の班内で寝台を並べてねる同年兵たちに、そのことを噛みくだいて分るように語らねばならぬ、武器の使用方法を習って、その武器を誰れに対して用いるか、そのことについてほかの分かっていない同年兵たちに語らねばならぬ。そし・・・ 黒島伝治 「入営する青年たちは何をなすべきか」
・・・という名前も、三男がひとりで考案して得意らしく、表紙も、その三男が画いたのですけれども、シュウル式の出鱈目のもので、銀粉をやたらに使用した、わからない絵でありました。長兄は、創刊号に随筆を発表しました。「めし」という題で、長兄が、それを・・・ 太宰治 「兄たち」
・・・宗匠頭巾をかぶって、『どうも此頃の青年はテニヲハの使用が滅茶で恐れ入りやす。』などは、げろが出そうだ。どうやら『先生』と言われるようになったのが、そんなに嬉しいのかね。八卦見だって、先生と言われています。どうやら、世の中から名士の扱いを受け・・・ 太宰治 「或る忠告」
・・・そうして、鋼鉄製あるいはジュラルミン製の糸車や手機が家庭婦人の少なくも一つの手慰みとして使用されるようなことが将来絶対にあり得ないということを証明することもむつかしそうに思われる。現に高官や富豪のだれかれが日曜日にわざわざ田舎へ百姓のまねを・・・ 寺田寅彦 「糸車」
出典:青空文庫