・・・若い女と一緒に参政権を絶叫し、台所のお爨どんまで時間制を高唱して労働運動に参加しようとする今日の思潮は世間の大勢で如何ともする事が出来ないのを、官僚も民間も切支丹破天連の如く呪咀して、惴々焉としてその侵入を防遏しようとしておる。当年の若い伊・・・ 内田魯庵 「四十年前」
・・・もしかすると鶺鴒の群がこの辺の縄張を守っていて雀の侵入者を迫害するのではないか。そんな臆説も考えられる。 池に家鴨がただ一羽いる。それが何だか淋しそうである。家鴨は群れている方が家鴨らしく、白鳥は一、二羽の方が白鳥らしい。 夕方にな・・・ 寺田寅彦 「浅間山麓より」
・・・という映画に、ヒーローの寝ころんで「ナポレオンのイタリア侵入」を読んでいる横顔へ、女がいたずらの光束を送るところがあったようである。 四 ドライヴ 身体の弱いものがいちばんはっきり自分の弱さを自覚させられて不幸に感・・・ 寺田寅彦 「異質触媒作用」
・・・従って観客はもはや傍観者ではなくてみずからその場面の中に侵入し没入して演技者の一人になってしまうのである。それで、おもしろいことには、劇や舞踊の現象自身は三次元空間的であるにかかわらず、観客の位置が固定しているためにその視像は実に二次元的な・・・ 寺田寅彦 「映画芸術」
・・・もしか自分がライオンだったら、この不都合な侵入者らに対してどんなに腹の立つことであろう。 アフリカは世界の動物園、野獣の楽園として永久に保存したい。天然物保存地帯として少なくもこの大陸内地の大部分を万国協定で指定してほしいと思うのである・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・また、鳥の生活に全然没交渉なわれわれは、鳥の声からしてわれわれの生活の中に無作法に侵入して来るような何物の連想をもしいられないせいもあるであろう。蝉の声には慣らされるが、ラジオの舌にはなかなか教育されるのに骨が折れる。 夕方歩いていたら・・・ 寺田寅彦 「軽井沢」
・・・を「個体性のないものは連続的物質中に侵入する」と訳しているが、これは、何となく古典物理学のエーテルを云っているようで面白い。「故致数車無車」を「部分の総和は全体ではない」と訳しているのでも、当否は別としてやはり面白い。欠けた硝子片を寄せたも・・・ 寺田寅彦 「変った話」
・・・命取りの強敵はもう深く体内に侵入しているがそんなことは熊にはわからない。またあわてて駆け出す。わけはわからないが本能的に敵から遠ざかるような方向に駆け出すのである。右の腰部からまっ黒な血がどくどく流れ出して氷盤の上を染める。映画では黒いだけ・・・ 寺田寅彦 「空想日録」
・・・命の親のだいじな消化器の中へ侵入しようとするものを一々戸口で点検し、そうして少しでもうさん臭いものは、即座にかぎつけて拒絶するのである。 人間の文化が進むに従ってこの門衛の肝心な役目はどうかすると忘れられがちで、ただ小屋の建築の見てくれ・・・ 寺田寅彦 「試験管」
・・・前者は賞をもらったが、後者は家宅侵入罪その他で告発されるという話である。これはたいへんな相違である。ただ二人の似ているのは人まねでないということと、根気のいいという点だけである。 それでもし煙突男の所業のまねをしたら、そのまねという事自・・・ 寺田寅彦 「時事雑感」
出典:青空文庫