・・・若し、自分の村で約束したゞけ取れそうになかったら、隣村へ侵蝕してでも、無理やりに取る。 候補に立とうとするような地主は、そういう男を必ず逃がさずにとっ掴まえ、金を貸したり田を作らしたりしておいて、必要に応じて走りまわらせるのである。又、・・・ 黒島伝治 「選挙漫談」
・・・子も、孫も、その孫も、幾年代か鉱毒に肉体を侵蝕されてきた。荒っぽい、活気のある男が、いつか、蒼白に坑夫病た。そして、くたばった。 三代目の横井何太郎が、M――鉱業株式会社へ鉱山を売りこみ、自身は、重役になって東京へ去っても、彼等は、ここ・・・ 黒島伝治 「土鼠と落盤」
・・・ 虫の口から何か特殊な液体でもだして鉛を化学的に侵蝕するのかと思ったが、そうでなくて、やはり本当に「かじる」のだそうである。その証拠にはその虫の糞がやはり「鉛の糞」だという。なるほど顕微鏡下にある糞の標本を見るとやはり立派な鉛色をしてい・・・ 寺田寅彦 「鉛をかじる虫」
・・・あたかもそれは、ナポレオンの軍馬が破竹のごとくオーストリアの領土を侵蝕して行く地図の姿に相似していた。――この時からナポレオンの奇怪な哄笑は深夜の部屋の中で人知れず始められた。 彼の田虫の活動はナポレオンの全身を戦慄させた。その活動の最・・・ 横光利一 「ナポレオンと田虫」
出典:青空文庫