・・・お前は便船のあり次第、早速都へ帰るが好い。その代り今夜は姫への土産に、おれの島住いがどんなだったか、それをお前に話して聞かそう。またお前は泣いているな? よしよし、ではやはり泣きながら、おれの話を聞いてくれい。おれは独り笑いながら、勝手に話・・・ 芥川竜之介 「俊寛」
・・・ なんだか急に帰りたくなって来た。便船はないかと聞いてみるとそんなものはこの島にはないという。このあいだ○○帝大総長が帰る時は八挺艪の漁船を仕立てて送ったのだという。 宅へ沙汰なしでうっかりこんな所へ来てしまって、いつ帰られるかわか・・・ 寺田寅彦 「三斜晶系」
・・・どれも西国への便船じゃ。舟足というものは、重過ぎては走りが悪い」 二人の子供は宮崎が舟へ、母親と姥竹とは佐渡が舟へ、大夫が手をとって乗り移らせた。移らせて引く大夫が手に、宮崎も佐渡も幾緡かの銭を握らせたのである。「あの、主人にお預け・・・ 森鴎外 「山椒大夫」
出典:青空文庫