・・・ 僕は一週間ばかりたった後、この国の法律の定めるところにより、「特別保護住民」としてチャックの隣に住むことになりました。僕の家は小さい割にいかにも瀟洒とできあがっていました。もちろんこの国の文明は我々人間の国の文明――少なくとも日本の文・・・ 芥川竜之介 「河童」
・・・ 閣下、こう云う事情の下にある私にとっては、閣下の御保護に依頼するのが、最後の、そうしてまた唯一の活路でございます。どうか私の申上げた事を御信じ下さい。そうして、残酷な世間の迫害に苦しんでいる、私たち夫妻に御同情下さい。私の同僚の一人は・・・ 芥川竜之介 「二つの手紙」
・・・花田 俺たちは力を協せて、九頭竜という悪ブローカーおよび堂脇という似而非美術保護者の金嚢から能うかぎりの罰金を支払わせることを誓う。一同 誓う。花田 そのためには日ごろの馬鹿正直をなげうって、巧みに権謀術数を用うることを誓・・・ 有島武郎 「ドモ又の死」
・・・けだしその論理は我々の父兄の手にある間はその国家を保護し、発達さする最重要の武器なるにかかわらず、一度我々青年の手に移されるに及んで、まったく何人も予期しなかった結論に到達しているのである。「国家は強大でなければならぬ。我々はそれを阻害すべ・・・ 石川啄木 「時代閉塞の現状」
・・・そういう道学的小説観は今日ではもはや問題にならないが、為永春水輩でさえが貞操や家庭の団欒の教師を保護色とした時代に、馬琴ともあるものがただの浮浪生活を描いたのでは少なくも愛読者たる士君子に対して申訳が立たないから、勲功記を加えて以て完璧たら・・・ 内田魯庵 「八犬伝談余」
・・・想い出した、多分太沽沖にあるわが軍艦内にも同じような事があるだろうと思うからお話しすると、横須賀なるある海軍中佐の語るには、 わが艦隊が明治二十七年の天長節を祝したのは、あたかも陸兵の華園口上陸を保護するため、ベカ島の陰に集合していた時・・・ 国木田独歩 「遺言」
・・・婦人をその天与の生理にも、心理にも合わない労働戦線に狩り出して、男子のような競争をさせるのでなく、処女らしさ、妻らしさ、母らしさを保護し、育児と、美容とに矛盾しない範囲の労働にとどめしめることは、新しい社会の義務だと思うのである。天理の自然・・・ 倉田百三 「愛の問題(夫婦愛)」
・・・その哺乳、その愛撫、その敵からの保護の心づかい、私は見ていて涙ぐましくさえなる。向ヶ丘遊園地で見た母猿の如きはその目や、眉や、頬のあたりに柔和な、精神性のひらめきさえ漂うているような気がした。 母親の抱擁、頬ずり、キッス、頭髪の愛撫、ま・・・ 倉田百三 「女性の諸問題」
・・・ 今日の社会では実に婦人は保護されていない。婦人としては男子の圧迫と戦うために職業戦線に出なければならない有様である。婦人の自由の実力を握るための職業進出である。婦人は母性愛と家庭とをある程度まで犠牲としても、自分を保護し、自由を獲得し・・・ 倉田百三 「婦人と職業」
・・・それは五十米と距らない赭土の掘割りの中に、まるで土の色をして保護色に守られて建っていた。「あいつも見て置く必要があるな。」 浜田は、さきに立って、ツカ/\と進もうとした。その時赭土の家からヒョイと一人の中山服が顔を出した。「や、・・・ 黒島伝治 「前哨」
出典:青空文庫