・・・青年学生がそれに耐え得るほど強く、人生の猛者であり、損害と不幸とを顧みずして運命を愛する真の生活者でありたいならば、私はこの保身と幸福にはまるで不便な、「恋愛運命論」によって、その恋愛を指導することを勧めたい。 われわれはちょうどわれわ・・・ 倉田百三 「学生と生活」
・・・然るに今虎列剌の流行に際して我が保身の法を如何するや。天下の人皆病毒に感ず、流行病は天下の流行にして、西洋諸国また然りとのことなれば、もはや我が身も自ら顧みるに遑あらず、共にその毒に伝染して広く世界の人と病苦死生を与にすべしとて、自暴自棄す・・・ 福沢諭吉 「日本男子論」
・・・蔵原惟人、小林多喜二、宮本顕治などの、既に当時は公然とした文化の場面で討論する自由を失わせられていた人々の努力をひたすら否定し、抹殺することで自身の保身法とするために、ソヴェトの社会主義的リアリズム論が歪めて援用された。これは一九三三年六月・・・ 宮本百合子 「解説(『風知草』)」
・・・こういう名流人たちの保身上の「都合」というものはいろいろはたから分らない事情があるのだろう。無力で小さい娘と、名をかくして親切をしてくれる人々に「英雄」が生きて苦しんでいたときの世話をゆだねたのなら、安心して、その身近い者であることを寧ろ誇・・・ 宮本百合子 「行為の価値」
・・・軍につながる高級官僚たちが素早く我をかばった保身の術も、同情をもってみられてはいない。 いま新京を遁走するという八月九日の夜、観象台の課長であった著者の良人が、責任感から、他の所員を引揚団の団長にして自分は一応残留したという事実に、読者・・・ 宮本百合子 「ことの真実」
・・・そういう町人風な保身の分別で、同時代人の叫喚の声がきき流された。一握りの思慮分別の足りない頭のわるいものたちの抵抗は、一人一人の自分を説得する名目を発見しながらおとなしくファシズムのもとにひしがれることを観念しつつある知性を刺戟した。実体は・・・ 宮本百合子 「世紀の「分別」」
・・・それは、自己完成の願望の純粋な発露と、保身的な我執との間を、自身にたいしてきびしく区別しようとしていることです。これは、関心をひかれる点です。『近代文学』の個の主張傾向のうちには、この大切な鋭さ、この感覚が全然欠けていて、目が内に向っていず・・・ 宮本百合子 「一九四六年の文壇」
・・・長いものには巻かれろ、という封建時代のことわざを、言葉として否定していても、精神は屈従し、打算保身は膝をかがめさせる。そのために毒薬さえすらりとのまされた。青酸加里を毒物と知っている人民も、政府予算の八五%は働く人民の懐からまき上げるという・・・ 宮本百合子 「目をあいて見る」
出典:青空文庫