・・・はいって来る信徒らは皆入り口の壁や柱にある手水鉢に指の先をちょっと入れて、額へ持って行って胸へおろしてそれから左の乳から右の乳へ十字をかく。堂のわきのマドンナやクリストのお像にはお蝋燭がともって二三人ずつその前にひざまずいて祈っている。蝋燭・・・ 寺田寅彦 「先生への通信」
・・・キリシタンを禁じた時代の宗教の熱心さと、信仰の自由を許されて後の信徒の熱心さとの比較でもそうである。自由を許したとて、信徒の数にしても決してそう驚くほど多くはならないのである。 こういう意味からすると、ラジオが出来たためにわれわれの音楽・・・ 寺田寅彦 「ラジオ雑感」
・・・白い鳩は基督教の信徒には意義があるかも知れないが、然らざるものの葬儀にこれを贈るのは何のためであろう。 元来わたくしの身には遵奉すべき宗旨がなかった。西洋人をして言わしめたら、無神論者とか、リーブル・パンサウールとか称するものであろう。・・・ 永井荷風 「西瓜」
・・・ もう気の早い信徒たちが二百人ぐらい席について待っていました。笑い声が波のように聞えました。やっぱり今朝のパンフレットの話などが多かったのでしょう。 その式場を覆う灰色の帆布は、黒い樅の枝で縦横に区切られ、所々には黄や橙の石楠花の花・・・ 宮沢賢治 「ビジテリアン大祭」
・・・頭も気も狭い信徒仲間の偏見と、日本の重い家族制度の絆と戦おうとする葉子を、作者は彼女の敗戦の中に同情深く観察しようとしている。人間の生活の足どりを外面的に批判しようとする俗人気質に葉子と共に作者も抵抗している。それらの点で作者の情熱ははっき・・・ 宮本百合子 「「或る女」についてのノート」
・・・特に、ここには、正面入口の中央に、大理石で、日本信徒発見記念のマリア像が在る。 空模様もよくなったので、私共は浦上へも行くことにした。浦上と云えば、静かな田舎であろうと思って居たところ、長崎の市の真中から電車で四十分ばかりの処だ。終点か・・・ 宮本百合子 「長崎の一瞥」
・・・ 私共は左に花壇のある石段を登り、日本信徒発見記念のマリヤ像の立っている正面玄関の右手扉を云われた通りに押して見た。開かない。ぐるりと裏に廻ると別に入口があり、ここは易々と開いたが、司祭の控室らしく、白い祭服のかかっている衣裳棚などがあ・・・ 宮本百合子 「長崎の印象」
・・・ どんな苦しい事に出会ったにしろ世の中を又は人を恨まず自分のする事だけをまじめにして行くと云うのは基督信徒にかぎらず大切な事だと思った。 それからいよいよ本式に化学と国語を見た。国語の柴田鳩翁の「道話一則」をよみ次の次の松下禅尼まで・・・ 宮本百合子 「日記」
出典:青空文庫