俊寛云いけるは……神明外になし。唯我等が一念なり。……唯仏法を修行して、今度生死を出で給うべし。源平盛衰記いとど思いの深くなれば、かくぞ思いつづけける。「見せばやな我を思わぬ友もがな磯のとまやの柴の庵を。」同上一・・・ 芥川竜之介 「俊寛」
・・・ 馬鹿め、しっかり修行しろ、というのであった。これもまた信じている先生の言葉であったから、心機立ちどころに一転することが出来た。今日といえども想うて当時の事に到るごとに、心自ら寒からざるを得ない。 迷信譚はこれで止めて、処女作に・・・ 泉鏡花 「おばけずきのいわれ少々と処女作」
・・・伯母さんはまた自分の身がかせになって、貴下が肩が抜けないし、そうかといって、修行中で、どう工面の成ろうわけはないのに、一ツ売り二つ売り、一日だてに、段々煙は細くなるし、もう二人が消えるばかりだから、世間体さえ構わないなら、身体一ツないものに・・・ 泉鏡花 「女客」
・・・ もう八十にもなっておいでだのに、法華経二十八巻を立読に遊ばして、お茶一ツあがらない御修行だと、他宗の人でも、何でも、あの尼様といやア拝むのさ。 それにどうだろう。お互の情を通じあって、恋の橋渡をおしじゃあないか。何の事はない、こり・・・ 泉鏡花 「清心庵」
・・・「は、は、修行者のように言わっしゃる、御遠方からでがんすかの、東京からなす。」「いや、今朝は松島から。」 と袖を組んで、さみしく言った。「御風流でがんす、お楽みでや。」「いや、とんでもない……波は荒れるし。」「おお。・・・ 泉鏡花 「燈明之巻」
・・・暗さは暗し、場所柄は場所柄なり、可恐さの余り歯の根も合わず顫え顫え呪文を唱えながら遁げ帰りましたそうでありますが、翌日見まするとそこに乾かしてございました浴衣が、ずたずたに裂けていたと申しますよ、修行もその位になりましたこの小僧さんなぞのは・・・ 泉鏡花 「湯女の魂」
・・・お前もまさか、お釈迦様が檀特山へはいって修行したというほどの決心で帰ってきたというものを、追返すというわけにも行くまい。その代り俺の方で惣治からの仕送りを断るから、それでお前は別に生計を立てることにしたがいいだろう。とにかくいっしょにいると・・・ 葛西善蔵 「贋物」
・・・苦しさ耐えがたけれど、銭はなくなる道なお遠し、勤という修行、忍と云う観念はこの時の入用なりと、歯を切ってすすむに、やがて草鞋のそこ抜けぬ。小石原にていよいよ堪え難きに、雨降り来り日暮るるになんなんたり。やむをえず負える靴をとりおろして穿ち歩・・・ 幸田露伴 「突貫紀行」
・・・女は物も云わず、修行を積んだものか泣きもせず、ジロリと男を見たるばかり、怒った様子にもあらず、ただ真面目になりたるのみ。 男なお語をつづけて、「それともこう云っちゃあ少しウヌだが、貧すりゃ鈍になったように自分でせえおもうこのおれを捨・・・ 幸田露伴 「貧乏」
・・・魔法といえば先ず飯綱の法、荼吉尼の法ということになるが、それならどんな人が上に説いた人のほかに魔法を修したか。志一や高天は言うに足らない、山伏や坊さんは職分的であるから興味もない。誰かないか。魔法修行のアマチュアは。 ある。先ず第一標本・・・ 幸田露伴 「魔法修行者」
出典:青空文庫