・・・ 文学に関する面でも、近頃文章学は従来の作家に縁の遠かった修辞学とは異なった科学的、実験的立場で、文学的作品の解剖、類別などを試みている。丁度谷崎潤一郎の「春琴抄」などが世間の注目をひき、文章の古典復興物語調流行がきざしかけた頃、なにか・・・ 宮本百合子 「芸術が必要とする科学」
・・・ 紹介者諸氏の驥尾に附して当時シェストフと不安の文学という流行語を口にしない文学愛好者はないようであったが、遂にこの流行は不安に関する修辞学に終った。そして、文学の実際は他の一方で皮肉な容貌を呈して動いた。 明治文学の再評価の機運が・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・ 修辞上の効果から云えば、自己の主張し肯定しようとする一方のものを引立てるために、それと対照する他の一方のものを強調して描くのが賢い方法であるかもしれません。 併し、或る国の社会状態を紹介し、批評し、未だそれを直接見聞したことのない・・・ 宮本百合子 「男女交際より家庭生活へ」
・・・ この毅然とした数行には、この作家が断定しにくい問題に対したときに示す機智・燕がえしの修辞法は一つもない。真正面から、歴史の現実は、かくある、という事実を憚らず語っている。これは文学の言葉である。同時に政治の言葉でもある。なぜなら、政治・・・ 宮本百合子 「人間性・政治・文学(1)」
・・・筆者は、わる丁寧な言葉で、御教示を仰ぎたいとか何とか文学的修辞を並べているが、無用なことだ。 第一、プロレタリア文学の世界的陣営で、芸術創作上の弁証法的方法の問題が、どの位熱心に、誠意をもって討究されているか。作品中に具体化されているか・・・ 宮本百合子 「反動ジャーナリズムのチェーン・ストア」
・・・ 市之進がお国の自殺を見たときの詞は、実に修辞の妙を極めて居るから、少し抜いて同好の士に示してやりたい。曰く「旦、御新造、やれまツ、自、害か、馬ツ、何といふ、いけませんか、療治は、助かりませんかな、やれ、もツ、こんな綺麗な首に、こ、こん・・・ 宮本百合子 「無題(六)」
出典:青空文庫