・・・その中で、最も古いのは、恐らくマシウ・パリスの編纂したセント・アルバンスの修道院の年代記に出ている記事であろう。これによると、大アルメニアの大僧正が、セント・アルバンスを訪れた時に、通訳の騎士が大僧正はアルメニアで屡々「さまよえる猶太人」と・・・ 芥川竜之介 「さまよえる猶太人」
・・・パンと塩と水とをたべている修道院の聖者たちにはパンの中の糊精や蛋白質酵素単糖類脂肪などみな微妙な味覚となって感ぜられるのであります。もしパンがライ麦のならばライ麦のいい所を感じて喜びます。これらは感官が静寂になっているからです。水を呑んでも・・・ 宮沢賢治 「ビジテリアン大祭」
・・・ 孤児として修道院で育てられたマルグリットは、農家の家畜番をする娘として働き、やがてパリに来て初めは裁縫工場に働き、やがてお針さんをしているうちに眼が悪くなり、だんだん手さぐりで縫うよりしかたがないようになった。長い間本をよむことや書く・・・ 宮本百合子 「衣服と婦人の生活」
・・・ 修道院に若くて美くしい尼御前の大勢になるのもこの時でお寺の墓掘りの懐の肥えるのもその時でござりますじゃ。 尊い御仁のけんかほど、大きい地面がゆるぎますでの。 天にござる神々のけんかなされた時には――ずうっと幼ない時にききました・・・ 宮本百合子 「胚胎(二幕四場)」
・・・そこで俺は心からすすめる、修道院へ行きな」 然し、修道院へは行きたくない。ゴーリキイは泣きたいような気持になり、十五歳になったばかりの自身を、もう永く生きた者のように感じる。酒を飲まず「女に絡まらず」青年になったゴーリキイの気紛れを遮っ・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
・・・精神にとっては牢獄である修道院の周囲にさえも、自然は美しさと多様さとをくりひろげていることの悲しい感動。それらはあらゆる読者に、自分たちの幼年の日の思い出を甦らせ、憂いとよろこびの流れ合った独特な心持を目ざめさせて、ハンスの苦悩にみちた運命・・・ 宮本百合子 「若き精神の成長を描く文学」
・・・あたかも大学と劇場と美術学校と美術館と音楽学校と音楽堂と図書館と修道院とを打って一丸としたような、あらゆる種類の精神的滋養を蔵した所であった。そこで彼らは象徴詩にして哲理の書なる仏典の講義を聞いた。その神話的な、象徴化の多い表現に親しむとと・・・ 和辻哲郎 「偶像崇拝の心理」
出典:青空文庫