・・・かかる世界的世界に於ては、各国家民族が各自の個性的な歴史的生命に生きると共に、それぞれの世界史的使命を以て一つの世界的世界に結合するのである。これは人間の歴史的発展の終極の理念であり、而もこれが今日の世界大戦によって要求せられる世界新秩序の・・・ 西田幾多郎 「世界新秩序の原理」
・・・たとへば日蓮は日蓮の個性に於て、親鸞は親鸞の個性に於て、同じ一人の釈迦を別々に解釈し――ああいかに彼等の解釈がちがつてゐたか。――そして私らは私らの個性に於て、私ら自身の趣味にふさはしいところのゲーテやシヨパンを、各自に別々に理解するまでの・・・ 萩原朔太郎 「装幀の意義」
・・・勿論、その人の個性はあるが、それは捨てて了って、その人を純化してタイプにして行くと、タイプはノーションじゃなくて、具体的のものだから、それ、最初の目的が達せられるという訳だ。この意味からだと『浮雲』にもモデルが無いじゃないが、私のいうモデル・・・ 二葉亭四迷 「予が半生の懺悔」
・・・性には人格もあり個性もある。特に女性は人間的な要素が多い。その要素を無視して、性器だけの交渉に中心をおくならば、すべての性的な行為は売娼の本質と等しくなってしまいます。なぜなら、そこに、人間的な選択、完全な結合、愛、同感、互の運命への責任等・・・ 宮本百合子 「新しい抵抗について」
・・・小市民的な日常と「個性」のうまやにとじこめられていた人類の伸びようとする精神は、二十世紀はじめのフランスのデガダニストたちのように、遂にわが身一つを破り分裂させることにおいてではなく、発展させられる方向が社会主義のうちにこそあるということが・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第九巻)」
・・・だから一九四五年以後にこれらの若い精神がにわかに自己の人間性・個性が社会的に復権することの当然さを発見したとき、さけがたい混乱を生じた。 日本では、一九四五年の八月からあとになって、やっと人間と社会の真実について話ができるようになった。・・・ 宮本百合子 「生きつつある自意識」
独断 芸術的効果の感得と云うものは、われわれがより個性を尊重するとき明瞭に独断的なものである。従って個性を異にするわれわれの感覚的享受もまた、各個の感性的直感の相違によりてなお一段と独断的なものである。それ故に文学上に於ける感覚・・・ 横光利一 「新感覚論」
・・・私の個性は性格は私の宿命です。どういう樹になるかは知らないが、芽はすでに出ているのです、伸びつつあるのです。芽の内に花や実の想像はつかないとしても、その花や実がすでに今準備されつつある事は確かです。今はただできるだけ根を張りできるだけ多く養・・・ 和辻哲郎 「ある思想家の手紙」
・・・よほど個性の顕著な人であったのであろう。そうしてこの禅の体得ということも、日本文化の一つの特徴として、今でも世界に向かって披露せられている点である。そうしてみると、これらの三つの点だけでも、応永時代は延喜時代よりも重要だと言わなくてはなるま・・・ 和辻哲郎 「埋もれた日本」
・・・これらの多様なる本能が統一せられた所に個性がある。従って個性もまた明確に認識せられ得るはずのものではない。 個性は、たとえていえば人相のようなものである。一、二の特徴を捕えることは出来るが、微妙な線や表情になると到底詳しく説明することは・・・ 和辻哲郎 「自己の肯定と否定と」
出典:青空文庫