・・・を得る処に美風の性命が存するのである、此精神が茶の湯と殆ど一致して居るのであるが、彼欧人等がそれを日常事として居るは何とも羨しい次第である、彼等が自ら優等民族と称するも決して誇言ではない、兎角精神偏重の風ある東洋人は、古来食事の問題など・・・ 伊藤左千夫 「茶の湯の手帳」
・・・そうしてこの傾向は真の一字を偏重視するからして起った多少病的の現象だと云うてもよいだろうと思います。諸君は探偵と云うものを見て、歯するに足る人間とは思わんでしょう。探偵だって家へ帰れば妻もあり、子もあり、隣近所の付合は人並にしている。まるで・・・ 夏目漱石 「文芸の哲学的基礎」
・・・所謂柔和忍辱の意にして人間の美徳なる可しと雖も、我輩の所見を以てすれば夫婦家に居て其身分に偏軽偏重を許さず、婦人に向て命ずる所は男子に向ても命ず可し。故に前文を其まゝにして之を夫の方に差向け、万事妻を先にして自分を後にし、己れに手柄あるも之・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・すなわちこれ心情の偏重なるものにして、いかなる英明の士といえども、よくこの弊を免かるる者ははなはだ稀なり。 あるいは一人と一人との私交なれば、近く接して交情をまっとうするの例もなきに非ざれども、その人、相集まりて種族を成し、この種族と、・・・ 福沢諭吉 「学者安心論」
・・・女自身、ましてインテリゲンツィアの女のひとが、とかく抽象的に自己完成のための仕事を偏重して、それを正々堂々と職業として、それ相当な社会的評価を求めようとしなかった傾向はふるい社会の通念を計らずも裏から合せ鏡で照り返しているようなものだといえ・・・ 宮本百合子 「現実の道」
・・・一般的に、農民作家の地方偏重の傾向、都会への偏狭さが屡々批判されるが、この作家の言葉にもよくあらわれている。 一九二九年の、激しい農村の階級闘争、富農征伐のとき、どちらかというと、右翼的誤謬をもち易い農民作家団の中に「工業化主義者の職場・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・知育偏重排撃という流行的傾向があって、昨今その流行に乗じて語る人々は科学の精神がおのずから本来そなえている倫理性を理解していない場合が多すぎる印象である。もし数理の観念と打算性と結びつけてしか考えられないとしたら、それはそれ等の人々の恥辱を・・・ 宮本百合子 「国民学校への過程」
・・・単一なソヴェト作家同盟組織委員会の結成、および創作方法における社会主義的リアリズムの問題の提起は、一部の人々によって誤解されているように、インテリゲンチアへの追随でもなく、抽象化され超階級化された技術偏重論でもない。ましてや階級性、革命性を・・・ 宮本百合子 「社会主義リアリズムの問題について」
・・・文学のひろびろとした発展のために無規準な地方色の偏重は不健全におちいるのであるが、その地方の生産に結びついている大衆の文学的欲求とその表現とがより潤沢に包括されればされるほど、その雑誌は文学の中に地方の現実の着実な観察を反映するものとなって・・・ 宮本百合子 「新年号の『文学評論』その他」
・・・の幹部連は、ブルジョア舞台芸術の個人主義、個人偏重からなかなかぬけられないでいることを。「ゴトブ」には、クリーゲルや、ゲリツェル・ソービノフ等々先輩の「人民芸術家」たちの下に、なったばかりの花形、或はなろうとしている花形が多勢いる。彼女、彼・・・ 宮本百合子 「ソヴェトの芝居」
出典:青空文庫