・・・老えるも若きも、病めるも健やかなるも。されどたれあってこの老人を気に留める者もなく、老人もまた人が通ろうと犬が過ぎ行こうと一切おかまいなし、悠々行路の人、縁なくんば眼前千里、ただ静かな穏やかな青空がいつもいつも平等におおうているばかりである・・・ 国木田独歩 「二老人」
・・・とは相違した立場であるが、それにもかかわらず、深い内面性と健やかな合理的意志と、ならびに活きた人生の生命的交感とをもって、よく倫理学の本質的に重要な諸根本問題をとりあげその解決、少なくとも解決の示唆を与えているからである。この本は生の臭覚の・・・ 倉田百三 「学生と教養」
・・・夢見る、理想主義の青年のみが健やかなる青年であり、次代を荷い、つくる青年なのである。 まして学窓にあるほどの青年が環境をつぶやいたりなどできるものであろうか? これに対してはクロポトキンの『青年への訴え』を読めと勧めるだけでつきている。・・・ 倉田百三 「学生と生活」
・・・スバーの若い健やかな生命は、胸の中で高鳴りました。歓びと悲しさとが、彼女の身も心も、溢れるばかりに迫って来る。スバーは、際限のない自分の寂しささえ超えて恍惚として仕舞いました。彼女の心は、堪え難い程苦しく重い、而も、云うことは出来ないのです・・・ 著:タゴールラビンドラナート 訳:宮本百合子 「唖娘スバー」
・・・樺や栃や厚朴や板谷などの健やかな大木のこんもり茂った下道を、歩いている人影も自動車の往来もまれである。自転車に乗った御用聞きが西洋婦人をよけようとしてぬかるみにすべってころんだ。 至るところでうぐいすが鳴く。もしか、うぐいすの鳴き声のき・・・ 寺田寅彦 「軽井沢」
・・・北方の大阪から神戸兵庫を経て、須磨の海岸あたりにまで延長していっている阪神の市民に、温和で健やかな空気と、青々した山や海の眺めと、新鮮な食料とで、彼らの休息と慰安を与える新しい住宅地の一つであった。 桂三郎は、私の兄の養子であったが、三・・・ 徳田秋声 「蒼白い月」
・・・女性の性が保障されない社会では、男性の性も守られず、つまり恋愛も結婚も家庭生活における父母としての経済上の安定も保たれず、従って人間性も健やかにあり得ない。刑法で姦通罪において婦人には手落だった過酷さが改正されたとしても、私たちの日々の生活・・・ 宮本百合子 「明日をつくる力」
・・・若い女のひとたちも日夜そういうものを目撃し、その気風にふれ、しかもその荒っぽさに心づかなくなって来るようなことがあれば、どこからほんとの美感としての簡素さというような健やかな潤いを見出して来るだろうか。今こそ私たちは人間の成長という方向で、・・・ 宮本百合子 「新しい美をつくる心」
・・・大人が、あなたがたの生きかたを眺めたとき、かつては自分たちも、あのように濁りない瞳、あのように真直な心とをもっていたのだと感動をもって思いかえし、一刻なりとも素直な心をとり戻すように、其位健やかに、熱心に、よく生きようと励んで下さい。 ・・・ 宮本百合子 「美しく豊な生活へ」
・・・体の健やかな共稼ぎの出来る能力のある女性や積極的に日々を展開してゆける機転と賢さと生活力を湛えた女性をこそ必要とするのだと、はっきり男として自身の感情の方向をつかんでいる若い人たちは何人あるだろうか。 時代が私たちに課していることはいろ・・・ 宮本百合子 「家庭と学生」
出典:青空文庫