・・・ 第三は、良人から与えられる金を当然の権利として、彼女の意のままに消費する群、つまり流行の偶像であり、香油と白粉の権化であり、良人の虚栄の仲介者となって居る婦人達。アメリカの物質的方面を恐ろしい程体現して、自分はいくらでも、素晴らしい着・・・ 宮本百合子 「C先生への手紙」
・・・日本の伝統的な皇族への感情の習慣は、ナンセンスそのものを通じて、偶像を否定しきっていない心理を温存させてゆく。笑いや優越感をとおって屈従に近づけられてゆくのである。 ヴァイニング夫人の「皇太子の教育」と題される文章が「皇太子殿下の御教育・・・ 宮本百合子 「ジャーナリズムの航路」
・・・少年は寺へ侵入して偶像は偶像であるということを明かにして娘を救い出す。ある場面では日本の壇の浦の遠見の敦盛みたいに、オートバイが舞台の前から出て、遠くまで行ってむこうの高い橋を小さくなって走ってくるところを見せる。そこは操り人形になって来る・・・ 宮本百合子 「ソヴェト・ロシアの素顔」
・・・しかしこの方面の批評をした人の中には、「世間がファウストを本質以上に買い被っていた迷を、私の平俗な文と演出者の率直な技とで打破したのだ、私と演出者とは偶像破壊者だ」と云った人もある。これは一種の諷刺のようにも聞き取られるが、ある友達の云うに・・・ 森鴎外 「訳本ファウストについて」
一 偶像破壊が生活の進展に欠くべからざるものであることは今さら繰り返すまでもない。生命の流動はただこの道によってのみ保持せらる。我らが無意識の内に不断に築きつつある偶像は、注意深い努力によって、また不断に破壊せられねばならぬ。・・・ 和辻哲郎 「『偶像再興』序言」
私がここに観察しようとするのは、「偶像破壊」の運動が破壊の目的物とした、「固定観念」の尊崇についてではない。文字通りに「偶像」を跪拝する心理についてである。しかしそれも、庶物崇拝の高い階段としての偶像崇拝全般にわたってではない。ただ、・・・ 和辻哲郎 「偶像崇拝の心理」
出典:青空文庫