・・・その時代の若書きとして残ってるもの、例えば先年の椿岳展覧会に出品された淡島嘉兵衛旧蔵の飛燕凝粧の図の如きは純然たる椿年派であって奔放無礙の晩年の画ばかり知ってるものは一見して偽作と思うだろう。が、その家に伝わったもので、画は面白くなくても椿・・・ 内田魯庵 「淡島椿岳」
・・・これはその書が後代の偽作でない限り言われることである。作者がいかに豊富なる想像力の所有者であってもその時代を偽り描くということは到底不可能な仕事だからである。それで、ちょうど、ある弾丸の描く弾道はまた同時に他のすべての可能な弾道を代表するよ・・・ 寺田寅彦 「科学と文学」
・・・今日軍需景気で絵画の偽作が横行する。それも主として日本画の贋物が多いということ、東京郊外の畑や藪が分譲となっておどろくばかりの売れ行を示しているということ。市内のデパートで百円以上の反物が飾窓に出されて数時間のうちに売れてしまうということ、・・・ 宮本百合子 「風俗の感受性」
出典:青空文庫