・・・その後沼南昵近のものに訊くと、なるほど、抵当に入ってるのはホントウだが、これを抵当に取った債権者というは岳父であったそうだ。 これも或る時、ドウいう咄の連続であったか忘れたが、例の通り清貧咄をして「黒くとも米の飯を食し、綿布でも綿の入っ・・・ 内田魯庵 「三十年前の島田沼南」
・・・するとそんな男にでもいろんな借金があって、死んだとなるといろんな債権者がやって来たのであるが、その男に家を貸していた大家がそんな人間を集めてその場でその男の持っていたものを競売にして後仕末をつけることになった。ところがその品物のなかで最も高・・・ 梶井基次郎 「のんきな患者」
・・・そんな場合、栗本には、彼等が既に国家に対して債権者となっているように見えてきた。「何だい! 跛や、手なしや、片輪者にせられて、代りに目くされ金を貰うて何うれしいんだ!」彼は何故となく反感を持った。 しかし、これから、さき、なおどれだ・・・ 黒島伝治 「氷河」
・・・そういう場合に債権者は債務者の不意を襲うてその身辺に円を画く。すると後者はその債務を果たすまでその円以外に踏み出す事が出来ない。もし出れば死刑に処せられる。 こういう法律は今日では賛成者が少なそうに思われる。債務者の方が多数だから。・・・ 寺田寅彦 「マルコポロから」
・・・しかし幸か不幸か債権者の大部分はもうどこにいるか分らない。一巻の絵巻物が出て来たのを繙いて見て行く。始めの方はもうぼろぼろに朽ちているが、それでもところどころに比較的鮮明な部分はある。生れて間もない私が竜門の鯉を染め出した縮緬の初着につつま・・・ 寺田寅彦 「厄年と etc.」
・・・しかしながら、新聞は、繭の高価を見越し、米の上作を見越して債権者はこの秋こそ一気に数年来の貸金をとり立てようとしているから、それを注意せよ、当局もそこから生じる紛争を警戒している、というのである。農民は今日の社会的事情にあっては、実った稲を・・・ 宮本百合子 「自然描写における社会性について」
・・・工業化債権に、スモーリヌイの勤務者が何ルーブル応募したとかいう報告が書かれている。―― 壁新聞は、СССРじゅう至るところの役所、工場の職場、学校で発行されている。大抵、手書きである。漫画、写真をはったの、新聞雑誌からの切りぬきを編輯し・・・ 宮本百合子 「スモーリヌイに翻る赤旗」
・・・ 多くの伝記者は、バルザックが常に好んで「私の借金、私の債権者ども」と云ったことを記録している。彼は、この二つのものの中に、彼の大きい真情を傾けて敬愛しているベルニィ夫人と母までをこめて、考えねばならぬ端目になった。ブルターニュの昔から・・・ 宮本百合子 「バルザックに対する評価」
・・・お蝶が死んだら、債権者も過酷な手段は取るまい。佐野も東京には出て見たが、神経衰弱の為めに、学業の成績は面白くなく、それに親戚から長く学費を給してくれる見込みもないから、お蝶が切に願うに任せて、自分は甘んじて犠牲になる。」書いてある事は、ざっ・・・ 森鴎外 「心中」
出典:青空文庫